第6章 【蕾が開く頃日和】幸村精市
「そろそろ時間だね、急ごうか・・・」
そう言って床に脱ぎ捨てていたブレザーを拾い上げると、それを肩に羽織る精市の制服の裾を、思わずギュッと握りしめる。
急がなきゃいけないのは分かっているのに、離れてしまうのが寂しくて、精市の顔をジッと見上げてしまう。
「・・・まいったな。」
そんな私の様子に目を見開いた精市は、もう一度、私のそばに近寄って、それからまた身体を包み込む。
だって・・・そう頬を膨らませて見あげた精市の白い頬は、ほんのりと色づいていて、それはまるでさっき私が借りた白と淡いピンクのビオラの花のようで・・・
もしかして、精市、今、そんなに余裕ない・・・?
普段見れない精市のその様子が嬉しくて、いつもより少し早い鼓動を打つその胸に頬を寄せると幸せで・・・
「お願い、もう少しだけこうしてて・・・?」
「付き合うよ、璃音の気の済むまでね。」
そして2人、顔を見合わせてふふっと笑うと、またしばらく精市の腕の中で幸せの余韻に浸る。
2人の笑顔はまるでほころび始めたビオラの花の蕾のようだった―――
【蕾が開く頃日和】幸村精市