第1章 〜欠片〜
日番谷に預けた後。
淡々と書類を片づけながら、白哉はすんなり引き下がった己を悔いていた。
確かに執務は残っていたが、それは彼方とて同じ筈。
自分とて聞きたいことは山とある。
いや、それ以前に。
自分は日番谷と二人きりにしてしまった事を悔いているのだろう。
たった一日、されど一日。
彼奴にとってはこの世界に来て初めての日で、恐らく感化されるスピードは他と比べ物にはならない。
もし彼奴が日番谷に懐いてしまったら。
自分をあの瞳に映してくれぬようになってしまったら。
それが酷く恐ろしかった。
他の死神の目に何と映ろうと気にも留めない自分が、こんな些細な事に動揺している事に自嘲して。
定時と同時に部屋を出て、十番隊の隊主室へと向かった。
どういう訳か体が成長した日番谷が噛み付いてきたが、他にいた死神を利用して、玲を連れ去る。
瞬歩で駆けながら、彼女の温もりが腕の中にあることに酷く安堵した。
途中、自分で走れるとごねられたが、結局降ろさないまま屋敷に着いた。
逃げられると思ったわけではない。
琥珀の瞳は、不思議そうに、しかし真っ直ぐ自分を映していたから。
唯、手放すのが惜しいと思ってしまっただけだ。
どうかしている。
今日会ったばかりの女に、こんな感情を抱くなど。
けれど、否定するには自分で思ったよりも大き過ぎた。
恋をした事がない訳ではない。
愛情と言うものも知っているはずだった。
しかし、自身でコントロール出来ない程の感情は初めてで。
白哉は考える事を放棄した。