第6章 〜朧夜〜
「むぅ…」
今日も今日とて長湯しようとしていた私は、白哉に命じられた使用人の乱入により強制的にお湯から放り出された。
抵抗しようにも、本当に申し訳無さそうに頭を下げる彼女に文句も言えず。
仕方なく本人に文句を言うと
「また逆上せるまで入られては堪らぬ」
さらりと、さも当然の様に返されて、軽く拗ねているのだった。
「それ程不満か」
書物をしていた手を止めて、ちらりと此方を見遣る白哉の目が、悪気は無かった事を告げていて。
確かに彼がああしなければ、また気絶しないとも限らなかったことは自分でも分かっている。
もう少しゆっくりしたかったのは事実だけれど。
「いいよ。白哉が正しいもん」
告げると、筆を置いた白哉が側に来て膝を付いた。
「其方が眠っているとつまらぬ」
「っ…白哉、今日なんか変…?」
するりと頬に伸びてきた手に首を傾げると、ふっと彼が微笑んだ。
普段は殆ど変わらない表情が笑みを作ると、どうしていいか分からなくなる。
けれどその美しさに、目を離せなくなることは確かで。
「私がおかしいと思うなら、それは其方の所為であろう」
創造体が彼に自身を斬れと請うたことを言っているのか、それとも別の事なのかはわからない。
でも、白哉の目が何処か悲しそうで、触れられた手に手を重ねた。
「ごめ「謝るな」…うぅ」
すっと引き寄せられて、彼の温もりに身を寄せると、優しく髪を撫でられた。
「怒ってなどおらぬ。彼奴に其方が命じた事では無いことぐらい分かっている。其方の斬魄刀が勝手にした事にも、感謝している」
「え?天照が何かしたの?」
「…知らずとも良い」
見上げると、口を滑らせたとでも言うように目を逸らす白哉。
天照に問い質そうかとも思ったが、彼女が敢えて言わないのなら、本当に知らなくていいことなのだろう。
ふっと頭の中に、現世で増殖したおかしな霊圧の情報が流れ込んできたが、今は良いかと目を閉じる。
彼方には死神代行がいる。
阿散井も今朝降りたと言っていた。
ルキアも居るはずだし、滅多なことは無いだろうと。
でも、此処が騒がしくなるようなら、少し首を突っ込んでみようかなんて考えながら。
優しく包んでくれる彼の香りに安堵して。
私はいつの間にか意識を手離していた。