第34章 番外編:恋病メランコリー【ep-03】
「――ただいま。」
「お帰りなさい。」
普段なら聞こえるはずのない声に、慎也は思わず口角を上げる。
泉はパタパタと玄関に姿を現す。
いつの間にか彼女の顔は、コロコロと表情を表すようになっていた。
「泉。今日、犯人捕まえたから。」
「え?」
「もう大丈夫だ。」
ポンポンと頭を撫でてやれば、泉は思ったよりも喜ばなかった。
「――泉?」
不思議そうに慎也が問えば、泉はフルフルと首を振った。
「何でもないです。有難うございます。じゃあ――、私も自分の家に帰らないとですね。」
その言葉に、慎也は意地悪く笑う。
「何だ、お前。ここにいたくてそんな浮かない顔してんのか?」
「な?!ち、違います!」
「素直じゃねぇなぁ。」
「違うって言ってるでしょ!」
そう言って踵を返す泉を後ろから抱き締めれば慎也は耳元でわざと低い声で言う。
「俺のこと、好きだって言ったらずっとここにいても良いぜ?」
「――?!」
まるで拷問かと思うような言葉に、泉は言葉にならない悲鳴を上げる。
「言わないなら置いてやらねぇ。」
ズルイ男だと、そう思った。
「――泉?」
侵食するようなその声音で言われ、泉はグルッと振り向けば慎也の口に噛み付くようなキスをした。
「謝る代わりに憎しみを、この胸の中に募らせてみたりした。」
「――?!」
「好きよ!悪い?!こんなに好きにしたんだから責任取りなさいよ!慎也!」
まるで逆ギレとばかりに言われて、慎也は笑う。
「わ、笑う事ないでしょ!」
「はは。だってお前――、反則。可愛すぎ。」
「――バカ!!」
「俺も好きだぜ、泉。」
不意打ちのように言われて、泉は再び顔を真っ赤にした。