第32章 番外編:恋病メランコリー【ep-01】
「――あ。ねぇ、慎也!起きて!」
「ふぁ――。なんだよ、泉。」
眠たいところを揺すり起こされて、慎也は不機嫌そうに言う。
「見て。付き合って6年目!」
そう言って見せられた携帯は、スケジュールに可愛らしく『6周年♪』と書いてあり慎也は思わず笑った。
「何で笑うのよ?」
「いや――。意外と乙女チックだよな、お前。」
「意外とって何よ?!」
「悪かったって。そう怒るな。」
拗ねた泉をあやしながら、慎也は昔の記憶を辿った。
「イミテーションの感情で自己満足が出来た頃。」
~6年前~
「おい、日向!この書類なんだけどな。」
「そこに置いといて下さい。やりますから。」
「いや、手伝うって。」
――1年前。
後輩として配属されて来た日向泉と言う女に抱いた印象は『笑わない女』だった。
サイコパスチェックやその他の数値に置いても全てパーフェクト。
仕事は完璧にこなすが、何しろ可愛くない。
慎也は相変わらず仏頂面の泉に、ため息を吐いた。
「お前、もうちょっと笑ったら?」
「別に笑わなくても仕事は出来ます。」
「そうだけど。――可愛くねぇな。」
「――知ってます、そんなの。」
ボソリと聞こえるか聞こえないかの声で紡がれた言葉に、慎也は首を傾げた。
「日向――?」
「狡噛さん!宜野座さんが呼んでますよ~!」
「――今、行く。」
会話を中断するように名前を呼ばれ、慎也は仕方なく部屋を後にした。
「なんだよ、ギノ。」
心無しか不機嫌そうに問えば、宜野座は眉根を寄せた。
「それはこっちの台詞だ。この前頼んだ書類は?」
「さっき日向に渡した。」
「そうか。――なぁ、狡噛。日向監視官をどう思う?」
「はぁ?」
怪訝そうに言われて、宜野座はバサッと書類を机に並べる。
「見てみろ。彼女の色相判定の結果だ。」
「――すごいな。オールクリア。微塵のブレも見当たらない。」
「それがずっとだ。公安局に配属されてからずっと。もっと言えば、その前からだ。」
「――まるでサイボーグだな。ここまで感情が揺らがない人間がいるのか。」
それは純粋な興味に過ぎなかった。
鉄壁の仮面を被っているのは分かっていたが、その裏が見てみたいとそう思った。