第1章 喪失
背後に居る男の人が息を飲み、緊張に体を固くした。
「ま、待て!待て待て!落ち着け!俺達はお前の為を思って…」
「…………」
「ひぃっ!」
私の背を支える男の人がとっても焦っている。例えるならば浮気を奥さんに見られて焦る夫の図、的な?いやいや、目が見えないから想像でしか無いけれど、とにかく凄く慌てているみたい。
でも、私はこれで助かったかもしれないと安堵の息をついた。
きっと、凄くはしたなくて情けない格好をしてる。でも私の初めてを失う事と比べたらまだましだと思い直した。
期待を込めて見えない目で新しく現れた声の主を探す。
「…挿れて無いんでしょうね?」
「あ、当たり前だろうが!挿れてねぇ!挿れてねぇ!ぜってーに挿れてねぇ!」
後ろの男の人の必死感が半端無い。
まるで死刑の求刑を受けるか否かの瀬戸際に立たされた犯罪者の様な?いや、これも想像だけどね。
きっとさぞや情けない表情をしているに違いない。それを見ることが出来ないのが悔しいけれど。
「…まぁ、貴方達の処分は後にしましょう。そのまま押さえておきなさい」
新しく現れた男の人は暫しの無言の後、そんな事を口にした。
「???」
助けてくれるのだろうか?でも、何だか…
サラリと私の頬に羽のような柔らかいものが触れた。それと同時にふわりと香る爽やかな香り。今までに無く人の気配を近くに感じた。
そう、まるで覆い被さる様な。
「っ?!」
そこまで考えて私は嫌な予感に体を震わせた。もしかしてこの人も私をどうこうしようと言うのだろうか。恐怖に心臓が破れそうに大きく脈打つ。耳元で心臓が鳴っているみたい。
「貴方たちは周囲に気を配っておきなさい。彼女を見たら殺しますよ?」
冷たい声。先程の男の人達に言ったのだろう。次いで金属の音と布が擦れる音。
男の人が更に体を近付けて密着してくる。逃げようとしても後ろにはまだ先程の男の人が私を抱えたままだ。
私の下部に何かが触れた。
温かくて、金属とは違う柔らかさと指の先とも違う大きさ。
それは上から下へと私の密と香油をまぜるように数度往復して、最後に入り口の前で止まった。
「…さぁ、力を抜いて下さい」
良く響く素敵な声。先程とは全く違う、とても優しい声が聞こえたかと思うと男の人は私の中へと一気に高ぶりを突き入れた。