第1章 君が弾くピアノは、いつだって悲歌劇
「ちっかげ~!朝ですよ~ぅ!」
「――。」
「千景!ちぃちゃん、ちっち~!ちーやん、ちか「――うるさい。黙れ。」――はい。」
地を這うような声で綾女を睨む。
けれど綾女はへらっと笑った。
「お早う、千景!お味噌汁の味噌は赤と白どっちの気分?」
「――白。」
これがいつもの日常。
風間邸の朝は毎日このやり取りから始まる。
「あ、ねぇ千景!北斗に御飯あげてから来てね!」
「――めん「どうって言ったら千景の御飯を北斗にあげるよ?」――死ね。」
枕を綾女に投げればひらりと上手く交わされた。
「ッチ。」
仕方ないから起き上がる。
まだ朝は冷えるから上着を羽織って庭に出れば柴犬の北斗が待っていた。
「いつからいた、貴様。」
千景が問い掛けるが北斗が答える訳がない。
「やれやれ。」
ため息をつきながら慣れた手つきで餌をやれば大人しく「待て」をしている北斗の姿。
「――綾女にも見習わせたいものだな。――良し。」
合図をしてやればガツガツと北斗が朝御飯を食べ始める。
いつから、日課になった。
物思いに耽る千景の鼻を白味噌の良い匂いが掠めた。
「ち~かげ~!もう出来るよ~!」
「今、行く。」
考えを中断して千景は腰を上げた。
綾女がいて北斗がいるのが日常の風景なのだ。
「――悪くない。」
「千景ってば!早く~!」
「うるさい。」
Ep-01:君が弾くピアノは、いつだって悲歌劇