第4章 雨に濡れたネコ
一松「よくやるね、アンタ…。あんなグロいネコ平然と触っただけじゃなく、ズブ濡れになりながら墓まで作ってやって……」
すると青年が話し掛けてきた。
その話し方は暗く捻くれた感じだった。
菖蒲『…アタシは別にグロいと思わないから』
それに自分も素っ気なく返す。
正直話し掛けられるなんて思わなかったから戸惑ってる。
人と話すのは苦手だ…。
一松「へぇ…凄いね。フツー女は気持ち悪がると思うけどね…」
菖蒲『あの飛び出てた"モノ"も元々身体の一部だからね…。自分の中にもある身体の一部をグロいなんて思わない。寧ろ綺麗だと思う……』
一松「アンタ変わってんね…。ねぇ、なんでそのネコにそこまですんの?なんの得にもなんないのに……」
やたらと質問してくる青年。
言葉は少しトゲがあるのに、その手に握られた傘は今だ自分に傾けている。
優しいのか嫌な奴なのか…
菖蒲『…こんな小さい仔でも、生きてる間に辛い思い色々してきたと思う。なのに、死んだ後もあんな風に人間に晒し者にされて、好き勝手言われて……そんなの…悲し過ぎる……』
一松「だからって、アンタがそこまでやる事ないんじゃないの?」
菖蒲『…自分がこの仔の立場だったら、きっと堪えられないと思ったから……。せめて死んだ後くらい、ちょっとは良くしてもらいたいから……』
これくらいやっても、バチは当たらないでしょ?
一松「………そうか」
青年はそう言うと暫く何も話さなかった。
するとおもむろに隣にしゃがみ込んで持っていたビニール袋の中からネコ缶を一つ取り出し、墓の前に置くと両手を合わせて拝んだ。
菖蒲『…………』
拝み終わると閉じていた目を開き、墓を見つめながら話し掛けてきた。
一松「……転生って信じる?」
菖蒲『転生?』
唐突な質問に思わず聞き返した。
一松「オレ…そーゆーのあんま信じてないけど、もしホントに転生とか…生まれ変わりとかあんならさ……」
青年は雨でドロドロの土に手を置き、先程とは違い優しさを帯びた声で言った。
一松「今度は、長生きして幸せになれればイイな……コイツ」
菖蒲『(あ……)』
そう言った青年の顔は確かに笑っていて、その笑顔に何故か胸が温かくなった。
菖蒲『………うん』
青年の言葉に、自然と笑って答えていた。