第19章 Marry me !!
それからしばらくして、
会社の昼休みに、
女性社員たちが雑誌を広げて
何やら話してるのを見かけた。
…いや、そんなことは
別に珍しくもなんともない。
俺が気になったのは、
その中の一人がつけていた香水。
…この間、エリがつけてたのと
同じ香りがする。
この香り、流行ってんのか?
何気なく、声をかけた。
『…これ、何て言う香水?』
俺の質問には答えず、
キャーキャー騒ぐ、女性社員。
『あーっ、やっぱ、
気づいてくれる男の人、いるんだ!』
『でも、木葉さん、彼女、いるでしょ?
ざーんねんっ。』
『ね、木葉さんもこの香り、好き?』
…なんで、香水の名前を聞いただけなのに
こんな反応、するんだろ?
『いや、好きっていうかさ、
この間、彼女が新しくつけてたのが
これと同じ香りだった気がして。』
………。
『キャー、ステキやん!』
『木葉さん、それは、彼女に早く
プロポーズしてあげないとっ!』
わけ、わかんね。
『なんでだよ?』
『だって、この香水は…』
ほら、と言いながら
手元の雑誌の
"恋する女子の魔法コスメ"
…と書かれたタイトルの
特集ページを開いて、
彼女達が教えてくれた。
あの香りは、
恋のフレグランス。
結婚したい人の前でつけると
プロポーズしてもらえる…
そんな
"恋する女子のおまじない的香水"
LANV⭐Nの
"marry me!"
~私と、結婚して~
…あの日、
『なんていう香水?』って聞いたとき、
エヘヘ、と笑ってごまかした、
エリの顔を、思い出す。
エリ、
俺に、プロポーズの魔法、
かけたかったのか?
…かっわいい!
あのエリが。
いつもハッキリ物を言うエリが。
自分の気持ちを言葉に出来ず、
願いを込めて、
リボンがついたロマンティックな形の
香水の瓶を眺める姿を想像すると、
もう、
俺の頬はユルユルに緩んでしまう。
肉食女子のくせにっ!
そんなところで
想いを秘めるなんて、
かわいい。
かわいすぎ。
かわいすぎるじゃねえか!
…かわいい、の、三段活用だ!
…絶対、
プロポーズして、
喜ばせてやんなきゃな!
エリ、
お前の恋の魔法、
効果てきめん、だよ。