第18章 誓いの言葉
社長室を出ようとした時、
思い出した。
『社長、婚姻届の証人サイン、
ありがとうございました。
私の実家まで行って下さったそうで…』
『おぉ、見たのか。』
京治さんも、言葉を添えてくれる。
『入籍したら、またご報告します。』
『私より、小春君のご両親に
早く挨拶に行って、いい報告をしなさい。
年頃の娘さんを3年も待たせたんだろ。』
『はい。』
『そういえば、』
社長が笑いながら言った。
『私はお前をいつか社長にするって
約束をしてしまったんだった。
だから、そのつもりで働けよ。』
『…約束?小春のご両親に?』
『いや、コータローに、だ。』
『コータローって…え、木兎さん?
…また、なんでですか?』
『その婚姻届を預けに行った時に、
コータローと木葉君と飲んだんだ。
コータローが"友達が社長っていいなぁ"
って言っておったから。
いつか京治が社長になったら、
いいもん食わせてもらって
遊びに連れてってもらえって
約束してきたからな。』
『…また、そんな勝手なことを。
木兎さん、一生、覚えてますよ、きっと。』
『いいじゃないか、約束してやれよ。
世話になってるんだろ、彼らに。
恩返しは忘れるな。』
『…はい。』
社長室を出る。
扉が閉まると、
肩の力が抜けた。
…気づかないうちに、
相当緊張してたみたい。
『社長、圧倒的な存在感、だね。』
『…大きすぎて悔しいのに、
大きいことが誇らしい…って、複雑だよ。
学ぶことばっかりっていうか…。
俺も、ゼロからのスタートだ。
社会人としても、家庭人としても。』
『…その道のり、一緒に、歩かせてね。』
『よろしくな。』
二人で見上げる。
そびえ建つ
赤葦建設のビル。
その堂々とした大きさと
陽の光を反射する眩しさは、
社長そのものに見えた。
京治さんにも、いつかきっと
同じ存在感と輝きを。
それが、私の役目。
京治さんより
1日でも長生きして
支えなくちゃ。
…社長との
たったひとつの
誓い、だから。