第18章 誓いの言葉
社長は、
さっきまでとは違う、
静かな声で言った。
『…新鮮、というか、感慨深いな…
いつも私の意見をきいてきた京治が、
自分で女を選ぶ時が来たか。』
あ…
今、一瞬、
父親の顔をしていた気がする。
『…だったらどうして、
京治さんを自由にしてあげないんですか?』
『赤葦の家に生まれて、
後を継ぐ才能を持った以上、
これは避けては通れないことだから、だよ。
家をとるか、女をとるか。
親の意見をとるか、
自分の意思を貫き通すか。
どちらにしても、
生半可な気持ちでは、
誰も幸せに出来ない。
私は、会社を選んだ。
自分の家族は
幸せにしてやれんかったかもしれんが
社員の家族を何千人と養ってきた自負がある。
京治がどっちをとるか、
とことん悩んでから結果を出させるのが
父であり社長である、私の仕事でね。
君達の"愛"とやらで
どこまで乗り越えられるのか、
見させてもらうよ。』
『…社長は、どちらをお望みなんですか?』
低い声で、アハハ、と笑う。
『そりゃ、決まってるだろう。
君と別れさせて、京治に後を継いでもらいたい。
言っただろ?
私は、家族を幸せにするより
会社や社員をとった男だ。
急に、優しい父親ヅラするほど
弱っちゃいないよ。』
そう言って、社長は
開いたままにしていた
ドアに向かって歩き出す。
『あぁ、それから。』
振り返らずに、向こうを向いたまま。
『社内では、長男より、
京治に継いでほしいという声が多いんだ。
小春さん、
京治が牛島組との縁談を断ってる理由が
君だと知れたら、
風当たりも強くなるだろうから…
私に知れたからと
開き直ったりせんように、
身辺には気を付けなさい。
私は、京治が自分で考えて
決めてくれたらそれでいい。
君達のことを
無駄にバラしたりはせんよ。』
それだけ言い残して、
社長は出ていった。