第18章 誓いの言葉
…その日は、昼間から蒸し暑かった。
エアコンのきいた社内で働く間は
どんな暑さも関係ないけれど、
一歩外に出ると、
日頃、暑さに慣れていない体が
うめきだす。
汗、かかないようにしなくちゃ。
今夜、
会社の創立記念70周年パーティーが
都内の大きなホテルで行われる。
受付係として
早めに会場に入るように言われ、
夕方のラッシュに巻き込まれないよう
電車で、先輩達と移動する。
『今日は、三兄弟が揃うらしいよ。』
『えーっ?何かあんの?』
『知らないけど。
でも、あの一族が全員揃うこと、
滅多にないもんね。』
『長男の婚約者も来るってホント?』
『奥さん達の着物、見るの楽しみ~。』
『あたしはやっぱり料理が気になる!』
『えーっ、注目はゲストじゃない?
ショータイムがあるって聞いたよ~。』
…先輩たちは、
パーティーの"いろんなこと"に
興味があるらしい。
『ね、小春ちゃん、
パーティー始まったら、受付、頼んでいい?
私達、中に入りたいから。』
『いいですよ。』
私は、人がたくさんいる所は苦手だ。
むしろ、人のいない受付の留守番役は
ありがたいくらい。
…自由にお喋りできたのは移動中だけで、
会場についたら、それこそ目の回るような
慌ただしさだった。
シャンデリアが輝く会場には
同じくらいキラキラした人達が集う。
眩しい宝石やきらめくドレス、色鮮やかな着物。
少しも羨ましいとは思わないけど…
これが当たり前の人達がいる。
世界が違う、というのは
このことだ。
私たち受付係が着ているのは
お客様の輝きを引き立たせる
黒いスーツ。
会社が準備したもので、
黒とはいえ、とても上品だと思う。
その黒に
それぞれの密かなおしゃれを施した先輩たちは
パーティーが始まると
『小春ちゃん、ここ、よろしくね!
いい男見つけたら、ちゃーんと合コン、
セッティングするから。』
…と言いながら、
"スタッフ席"を目指して会場へ入っていった。