第16章 指輪
週末、アキ姉は東京に行った。
久々に、一人の夜を過ごす。
テレビを見る気にもなれず、
早々と布団を敷いて
ひっくり帰って天井を眺めていた。
静かだな…
この離れで二人暮らしを始めて
もうすぐ、1年たつ。
最初のチグハグだった頃のことを思い出すと
笑いが出る。
俺、自分のことばっか考えて、
しょーもねぇことでぶつかってたなぁ。
お互いの心の傷を告げあった日。
アキ姉に誘われたけど断って…
初めて抱いた日は、
『私がいるから大丈夫』って言われて
"女として"のアキ姉を意識した日。
小さなケンカは山のようにしたけど、
やっぱり"謝罪ケーキ"のことは
一生、忘れらんねーだろな。
あれから俺はパッタリと、
パチスロをやめた。
…今までの恋愛では、
意見が違ったり環境が変わったりしたら
なんとなく"別れよう"ってなってきた。
それは、俺がそれ以上、
歩み寄るための努力をしなかったから
なんだと思う。
アキ姉は、
"ぶつかったから別れる"のではなく
"続けるためにぶつかる"ことを
恐れない人だ。
愛することを自然にできる人。
愛されることを受け入れられる人。
つまり
『愛を持っている人』なんだと思う。
アキ姉と、生きていきたい。
そう思う気持ちを伝えるとしたら、
それはやっぱり
"プロポーズ"
…ということになるのだろうか。
この歳でようやく
そう思い始めた俺。
…これまで、教え子達の結婚式に
たくさん出席してきた。
その度に、いつも単純に
"おめでとう"と思ってきたけど、
俺よりずっと年下のアイツらが
一人一人、ちゃんと誰かを愛し、
相手に気持ちを伝え、
それぞれの困難を乗り越えて、
一緒に生きていこうと覚悟し、
プロポーズしてきたんだ、と思うと…
今更ながら、彼らのことを
立派だと思う。