第16章 指輪
その日は "たまたま"
烏野のバレー部の練習が、
体育館の都合で早く終わり
町内会チームの練習まで
ぽっかり時間があいた。
家に帰ったら店番させられそうだ。
どこで時間、潰そうか…
そう思いながら歩いていたら、
"たまたま" 目に入ったのが
パチスロ屋だった。
スロット、長く、してねーな。
ちょっと小銭で遊んでくか。
そう思ってふらりと入り、
"たまたま"座った台が
"たまたま"もう、きそう、という台で、
離れられなくなった俺は
小銭だけで飽きたらず札をつっこんじまい、
ハッと気付いた時には
町内会チームの練習時間になっていて、
その時は"たまたま"絶不調の時だったけど、
時間がないから泣く泣く店を出て
コーヒーを買おうと財布を開き、気付いた。
小銭しか入ってねぇぞ…
あれ?俺、有り金、はたいちまった?
…くーっ、
なんで調子のいい時に止めなかったんだ?
てか、なんで、スロ屋に行ったんだ?
よくあるパターンの後悔をしながら
その日は練習の後まっすぐ家に帰る。
(なんといっても、金がない。)
飯を食いながら、
何気なくアキ姉に言った。
『わりぃけど、ちょっと金、借して―。』
『いいよ、いくら?』
『んー、月末まで、2万あればいっか。』
…財布を取り出そうとしていたアキ姉の
動きが止まる。
『月末まで?2万?』
『おぅ。あ、今、なければ
明日でもかまわねーけど。』
…アキ姉の後ろから、
紫色の妖気がたちのぼった、気がした…
『なんで?』
『ちょ、ちょっと時間があいた、ので、
たまたま通りかかったスロ屋に寄ったら
たまたま調子が悪い時間に、
ちょうど店をでなくちゃなんなくて…』
『たまたま、全財産、使い込んだ、と?』
『ま、そういうことだ…
あ、でも、もしなければ、いいや。
明日、かーちゃんに借りるから。』
…ぶわんっ。
アキ姉の後ろの妖気が
1000℃の熱を持ったような
気迫を感じさせる…や、ヤバイ?
パチン。
財布を開いたアキ姉が
恐ろしいほどの静けさで言った。
『お金は、今、私の財布に入ってる分、
全部、置いていきます。でも、これしかない。』
財布から取り出した3482円。
『お、おぅ…さんきゅ。』
…どう見ても、不穏な空気しか感じない展開だ…