第16章 指輪
そのまま朝まで果てることなく…
と言えたら格好いいんだけど、
俺ももう、それほどは持たなくて(笑)
幾度かのピークの後、
二人で裸のまま、
布団に寝転がっていた。
脱ぎ散らかしたままの浴衣が、
行為の激しさを物語っている。
『ねぇ、』
『ん?』
『あのカップル、
明日の朝、浴衣、着れるのかな?』
『さぁな。
でも、うまくいかなかったことほど
後で忘れられない思い出になったり
するからなぁ。
裸でアタフタすんのもいいんじゃね?』
『大人の意見(笑)』
『その点、家でスんのはいいわ。
着替えも心配ねーし、
時間も気にしなくていいし。』
『ちょっとー、家とラブホを比べないで(笑)』
アキ姉が笑いながら文句をいう。
そしてその後、真面目な声で言った。
『家ってさ、ちょっと前まで
"行ってきます"の場所だって思ってたんだよね。
ワクワクしながら
外の世界に飛び出していく出発地点。』
『…ふーん。』
…何の話をするつもりだろう?
とりあえず、聴く。
『だけど最近は
"ただいま"の場所だって 思うようになった。
どこに出掛けても、
どんなに楽しい時間を過ごしてきても、
帰りついた時が一番ほっとする。
今は、実家よりここの方が、
自分の居場所だって気がするもん。』
…うん。わかるよ。
この小さな離れが、
俺たちの"帰る場所"。
ケンカをしたり
仲直りをしたり、
抱き合ったり
話し合ったりしながら、
自分達の居場所を作っていく。
今は、まだその真っ最中。
やっと縮まってきたこの距離を
共有したいとお互いに思えたら、
もしかしたら俺達も
"結婚"という選択肢を
選ぶ気持ちになるのかもしれない。
そう思えるまでに、
あとどのくらいの時間がかかるのか。
あとどのくらいのすれ違いがあるのか。
…『まだ、前を引きずってる』と言っていた
アキ姉の気持ちが、今、どうなのか、
それはわからない。
けど、俺は少しずつ
『もし結婚するとしたら、アキ姉と』
という気持ちが芽生えてきてる。
アキ姉なら、
今の俺の生活をわかってくれる。
それなら、こんな俺でも、
"結婚生活"というヤツを
やっていけそうな気がする。
…そう思っていたのに。
アキ姉は、出て行った。
俺の浅はかな、
甘えた行動のせいで。