第16章 指輪
果てた後、アキ姉は
裸のまま寝息をたて始めた。
俺は、気だるいのに、眠れない。
タバコ…いや、喉も乾いたな…
冷蔵庫から缶ビールを取りだし、
庭に出る大きな窓ガラスをあけて座る。
タバコを吸いながら、考えていた。
『好きになりそう』って言ったアキ姉の言葉。
…あれはまだ、
『好き』じゃねぇ、ってことだろう。
山口を思い出す。
アイツ、今の俺と同じだったんだな…
惚れた女が
前の男との踏ん切りをつけきれてなくて、
でも、もう戻ることはできない間柄。
それを、自分の方に振り向かせる。
…今になって思う。
俺のところに直接話をしに来た山口、
すげー勇気がいったんだろう。
俺に、同じことが出来るか?
『…繋心…』
ふすまが開いて、
パジャマを羽織ったアキ姉が顔を出した。
『わりぃ。起こしたか?』
『ううん、喉が乾いて目が覚めたら、
繋心がいなかったから…隣、いい?』
俺の横にアキ姉が座る。
『ちょっと、ちょうだいね。』
俺の飲みかけの缶ビールを口にした。
タバコを消す。
その手をアキ姉がスッとつかんで
顔を寄せた。クンクン、と、鼻をならす。
…これ、クセなんだな…
『…旦那、タバコ、吸うヤツだった?』
ハッとしたように手を離すアキ姉。
『…うん、ごめんね。
私、タバコは嫌いなんだけど、
手の残り香は、なんだか好きでね…』
そういえば、俺、アキ姉の旦那のこと、
何も知らねーな。
『恋愛結婚?』
『ん、一応。知り合ったのは合コン。』
『マジメなヤツだった?』
『…そうね、どっちかっていえば。』
『俺とは逆、みたいな?』
『…逆、だね(笑)』
『…まだ、好きか?』
『…早く幸せになってほしい、とかって
キレイゴトかな?』
いや、わかるよ。
俺も、山口に言ったもんな。
『早く幸せな報告しに来い。
じゃねーと、俺もいつまでも先に進めねー。』
…って。
多分、あれと同じ気持ちだろ。