第16章 指輪
ボールの音が響く、夕方の体育館。
『おい、西谷…』
『烏養さん?!
どうしたんっすか、げっそりして。』
西谷は、週に一度だけ、烏野バレー部の
練習を手伝いに来てくれている。
俺は、一週間前に始まった同居生活について
西谷に相談してしまった。
『いや、マジでさ、世間の結婚してる人達、
全員、尊敬するわ。俺、絶対、ムリ。』
西谷は、ゲラゲラ笑いながら言った。
『烏養さん、それ、
決定的に足りないもんがあるからっすよ。』
『足りないもの?なんだ、そりゃ。』
『愛情、っす。』
『…ほぅ、確かに。
情ならちっとはあるけど、
愛は、まったくねーな。』
『普通、同棲とか結婚とかって、
愛情がある者同士がするもんでしょ?
好きな相手だったら、
そいつのこと知りたいし理解したいし、
一緒にいること自体が楽しいから、
少々のことは気にならないもんっすよ。
愛がない同居なんて、
他人の集まり…例えば避難所生活?
みたいなもんじゃないっすか。
そこで違うこと数え始めたら、
そりゃ、きりがないですって。』
『…お前、最初からうまくいったのか?
その、ほら、かみさんとゆうとと、
いきなり3人暮らしだったろ?』
『俺?バッチリっすよ!
俺がアイツらの生活に後から入ったわけだから、
そこはもう、俺の方が、アイツらの生活に
100%、あわせましたもんね。』
『それで、平気なのか?』
『ぜんっぜん、平気っす。
目玉焼きなんて、
しょうゆでも塩コショウでも
どっちでもうまいんっすから。
そこで揉めるより、楽しくメシ食える方が
いいに決まってるっしょ?
だったら、好きな相手が喜ぶ方を
選べばいいんすよ。
俺、目玉焼きにイチゴジャムかけろって
もしゆうとに言われたら、
もう、たっぷりかけて笑わせますよ!』
…西谷、相変わらず、
ストレートで熱い男だな…