第15章 100回目のプロポーズ
夏と秋の境目。
今、俺たちは、
日本で一番たくさんの
出会いと別れが繰り返されているだろう
成田空港にいる。
見送るのも見送られるのもイヤだ、と
お互い、もめにもめた結果、
『じゃ、同じ日に出発しよう』
ということになり、
今日は、その日だ。
『今、どんな気分?』
『ワクワクしかねぇな。』
…少し寂しい、とは、
意地でも言わねぇ。
『アキは?』
『うん、ワクワクしかないね!』
…少し寂しい、とは、
意地でも言わねぇだろ。
会う約束は、していない。
一週間後に会いに行くかもしんねーし、
向こうでは一度も会わねーかもしんね。
先の約束は、たった1つ、
"生きてる間に、一回は結婚しよう。"
それだけで、十分だ。
『…じゃあな。』
まるで、学校の帰り道みたいに。
『うん。またね。』
明日の朝には会えるみたいに。
出来るだけ普通に、
別々の搭乗口に向かって歩き出す。
絶対に、振り返らない。
多分、アキも。
背中は、見ない。
見るのは、それぞれの未来だけ。
先のことは、何も分からねー。
だから、今、目の前のことを全力で。
お互いに、
恥ずかしくない自分でいられるように。
俺の100回目のプロポーズまで、残り10回。
残り10回を、いつ、どこで言おうか。
その時、アキはどんな反応をする?
あぁ、それも楽しみだ。
アキが"うん!"と言ってくれるまで、
100回だって200回だって繰り返すからな。
ちょっと普通じゃないプロポーズ。
でも、俺達二人には
それが心地よいバランス。
他の誰でもダメだ。
アキにだけ、一生かけて
この気持ちを伝え続けるから、
俺が惚れて惚れてしょうがない女でいろよ!
**********************************