第15章 100回目のプロポーズ
タクシーを降りると
引き出物の入った紙袋を抱えて
アパートの階段をゆっくり上がる。
早く歩きたいんだけど、
ちょっと酔ってるから、慎重に。
ケガなんか、絶対に出来ないからな。
ん?
この間も、同じとこで同じ事を考えたな。
あれは、誰の時だっけ?
最近、結婚したのは…
スガさん、縁下さん、今回は、山口…
あと…誰だ?…あ、日向か。
くそー、
日向にまで先を越されるとは思わなかった。
今日も月島に"まだ孤独の王様か?"って
一番イヤなことを言われたし…
意外かもしんねーけど、
俺も早く、結婚したいと思ってる。
ちゃんと自分の足下を固めてから
バレーに専念したい。
…ヨントリーの木兎さんは、
結婚してからさらに絶好調。
あの及川さんでさえ、
みんなの予想に反して(?!)
結婚してから幸せそうだ。
…落ち着いた、とは言えねーけどな(笑)
今、俺が向かってるのは、
実家…じゃない。
長い付き合いの彼女、アキの
独り暮らしの部屋。
♪ピンポンピンポンピンポンピンポ~ン♪
玄関のチャイムを激しく鳴らす。
回覧板でも宅急便でもなく、
俺だ、って、わかるように。
『トビオ~!開いてるよ~っ。』
…久しぶりに会うんだから、
玄関まで迎えに出てこいよ…
ちょっとイラッとしながらドアを開け、
ズカズカと上がる。
出てこない理由は、わかってる。
今、夢中になって
キャンバスに向かってるんだ。
『よぉ。』
『トビオ!久しぶり!!』
振り向いた顔を見ると…
あぁ、くそっ。
さっきまでのイライラも、
全部、吹き飛ぶ。
コイツは、絵を描いてる時、
本当に、いい顔をするんだ。
この顔を見ると、
わがままも、
足りない愛情表現も、
全部、許してしまう。
…なかなか結婚してくれないのも。