第14章 祝福の拍手
信号が、青にかわる。
俺の答えを待っているのか、
今度は早瀬さんが
俺の横顔を見つめているのがわかる。
もう、もう、何を言ったらいいのか
どうしたらいいのかわからない。
だって、見てるだけで幸せだったのに…
こんな密室に二人きりなんて、
想像したこともないのに、
俺が対処できるわけ、ねーじゃんっ!
何も言わない俺に、
早瀬さんが質問を重ねてきた。
『ね、山口君、
好きな人のためなら何でも出来る?』
え?何でもって意味がわかりません…
警察沙汰とか、俺、無理です…
『なんでも、って、例えば何ですか?』
『例えば…髪型変えたり。』
…なんだ、そのくらいの話か、とホッとする。
(考えすぎだよな、俺。)
今日はやけに、髪型の話が多いな。
難しい話じゃなくてありがたいけど。
ん?てか、これ、絶好の告白タイムか?
あなたのためなら、出来ますって言えば、
俺にもチャンスが訪れたりする?!
『えと…まる坊主とか金髪とかは
仕事柄、ちょっと厳しいですけど…』
ウフフ、と早瀬さんが笑う。
『むしろ、逆。』
…逆、って意味がわからないですけど、
とりあえず、言いますよ。
『…でも、もし早瀬さんに
そうしてほしいって言われたら、
俺なら、そうしてしまうかも、です。』
…ギリギリ精一杯の答えだ。
俺の中に、
これ以上の気持ちを表す言葉は
"あなたが好きです"しかない。
『あぁ…山口君みたいな人を
好きになれたらよかったな…』
…え?
ちょっと待って欲しい。
気持ちが前に集中できない。
運転しながらこんな話してたら、
俺、絶対、事故る。
『あの、車、停めてもいいですか?』
『え?いいけど?』
昼間なら海を見渡せる駐車スペースに
車を停めた。
酸素が薄い気がするのは、俺だけか?
まとまらない気持ちと頭を整理したくて
窓を開ける。
夜の海は真っ暗だ。
低い波の音が、
分厚い空気と一緒に押し寄せてくる。
気分は…ロマンティック、というより、
サスペンス?!