第13章 嫁ぎの紅(べに)
一緒にご飯を食べてから、
『また明日、試合会場で会おうね。』
と約束して、私達は別れた。
私はホテルへ、日向君は寮へ。
母と泊まるつもりだったから、
部屋はツイン。
ベッドが1つ、あいてるわけで…
本当は日向君に泊まっていってほしかった。
でも、明日も大事な試合。
早く帰って休んでもらわなくちゃ。
そう思ったから、誘わなかった。
いざ一人になってみると、
ツインの部屋は広くて寂しい。
考えてみれば、
私の周りには、いつも誰かいた。
母はもちろんのこと、
母が夜勤の時は、私の友達や、
母の仕事仲間が必ず誰かいてくれて、
自分が一人だと感じたことは
一度もなかった…
今思うと、
それは母の優しさだったんだ。
父がいないことを寂しく思わないように。
もし母と別れる日が来た時、
私がこの世でひとりぼっちにならないよう、
血の繋がりがない人たちとも
家族のように生きていけるように。
…それに気付いた今、
お気楽に母に甘えていた自分が
どうしようもなく情けなく思える。
泣ける。
母には見せられない涙だ。
あの、強い強い母の娘なのに、
なんで私、こんなに
甘ちゃんで弱虫なんだろ…
誰もいない隣のベッドを見ながら
ほろほろと涙が止まらない。