第13章 嫁ぎの紅(べに)
『アキちゃん、お待たせ!…あれ、律子さんは?』
必ずそう聞かれると思ったから、
心の中で何度も、このセリフを練習してきた。
『えぇと、
おかーさん、仕事が休めなくてね。
来れなくてホントに残念がってたよ。
翔ちゃん頑張れっー、て言ってた。』
『…アキちゃん、それ、ホント?』
『ホントだよ、なんで?』
『目が、全然こっち見てないから。』
…うぅっ。ウソつくの、苦手なんですぅ…
でも、お母さんの言葉が頭の中に響く。
"大事なときに余計な心配かけちゃダメ"
"ケガしたなんて言ったら、殴るわよ!"
鬼ヶ島の鬼みたいに、
松葉杖を振りかざして追いかけてくる
お母さんの顔が思い浮かぶ。
何も、言っちゃ、いけないっ。