第12章 1年後のガーデンパーティー
なんとも言い難い表情で
しばらく沈黙したあと。
『私、失恋しかしたことないから…
つきあう、とかそういうの、
多分、無理だと思います…』
さっきまでの優しい表情は
あっという間に影を潜めてしまった。
ギーッ…と、
雪乃さんの心のドアが
閉まっていく音が聞こえるようだ。
でも、今、閉じてしまったら、
もう、そのドアは
二度と開かなくなるに違いない。
思わず、言う。
『雪乃さん、逃げちゃ、ダメだ。』
『…逃げる?』
『逃げたら、一生、逃げ続けることになる。
俺が一緒にいるから。
今、ちゃんと自分と向き合いましょうよ。』
『自分と、向き合う…』
『そうです。
仕事の失敗は仕事でしか取り返せないし、
恋の傷は、もう一度恋することでしか
きっと治せないんです。
自分の逃げたい過去と
ちゃんと向き合わないと、
いつまでたっても
逃げ続けなきゃいけないですよ。』
最初の結婚での深い痛手。
スガさんへの失恋の傷。
…俺が治してあげたい、とは、
傷をえぐるようで、
さすがに言葉に出来なかったけど。
『…幸せのチャンス、
私の分、まだ残ってるのかな?』
『残ってるも何も、
雪乃さん、まだ使ってないでしょ。』
『ね、縁下さん…』
おずおずと、細い声。
波の音にかき消されそうな。
聞き逃さないように、耳を澄ます。
『弱い私を見ても、嫌いにならないでくれる?』
…思わず、笑ってしまった。
『ね、雪乃さん、
俺、今までどんだけ雪乃さんの涙を
見てきたと思ってるんですか?
それに、今、告白してる俺に
"嫌いにならないで"って、おかしいでしょ。
好きだって言ってるのに。』
『…あぁ、そっか。』
雪乃さんが妙に納得した顔をするのが
また、おかしくて。
そんなひとつひとつを
いとおしい…と
改めて思ってしまう。