第8章 小さな小さな披露宴
俺は、作業療法士として働いている。
簡単に言えば、
病気やけがで後遺症がある人への
心と体の機能回復を手伝う仕事。
こう見えて、
ちゃんと国家資格に合格して就いた仕事だ。
3年前、病院で、
ある男性患者を担当していた。
40代半ばで病に倒れ、
リハビリが必要だった彼のことは
よく覚えている。
訓練にも積極的で、大きな声でよく笑う、
とても感じのいい人。
ずいぶん年下の俺の指導にも
逆らうことなく真面目に取り組んでくれる。
こういう患者さんは、案外、少ない。
『いつも、積極的ですね。』
『早くよくなって、家に帰りたいんですよ。
家内と小さな小料理屋を出してすぐに
倒れてしまって…
苦労、かけっぱなしですから。』
『そういう心の支えがあるっていいですね。
早く帰れるように、一緒に頑張りましょう!』
…しかし彼は、それからしばらく後、
容態が急変して、亡くなった。
雪が溶け始め、
やがて春の気配を感じる頃のことだ。