第27章 ウェディングプランナー
夜久君の声が聞こえる。
『クロ、お待たせ。
やっと約束、果たせる日が来たよ。
ここからは、クロがエスコートして。』
夜久君と夏希ちゃんは、特別だ。
青春時代のほとんどを
黒尾さんと過ごしてきてる。
きっと今、
夜久君と夏希ちゃんの脳裏には
高校時代から今までのことが
思い浮かんでるに違いない。
…私では立ち入れない、
3人だけの想い出があるね。
私の知らない過去を話す姿。
みんな楽しそうで、見ていて嬉しい。
だって今までは
それぞれの想い出ばかりだけど、
これからは、私も、まぁちゃんも、
そして黒尾さんと私の子供も一緒に
新しい想い出に加わっていけるから。
それぞれの過去が重なって
新しい大きな繋がりが出来ていく。
…結婚は、
人の輪の広がり、だよね、夜久君。
『夜っ久ん、無理言ってごめんな。
でも、ありがとう。』
『こんなん無理でも何でもねぇよ。
てか、まだ何も始まってねぇし。』
『そうそう、
まだ早瀬ちゃんのスナップ写真しか
撮影してないから。今からですよ!』
そう言う花巻さんの奥さんにお願いしてみる。
『花巻さん、私、
衣装部の造花のブーケを借りてたんだけど、
このバルーンブーケ持って
撮影してもらってもいいですか?』
『いいよ、でも、』
奥さんは、笑って言った。
『焼酎だけは、はずしてもらおうか?』
『それはそれでアキらしいけど。』
黒尾さんが茶化す。
『ダメダメ、俺の作った花嫁に
それを小道具に持たせるの、禁止!
今日のテーマは"宴会"じゃなくて
"ロマンティック"なんだから!』
と、花巻さんが激しく反対して
『じゃ、それ、ちょっと預かるよ。』
と、夏希ちゃんが
バルーンブーケを私の手から取り、
『よし、チャペルでの撮影、始めよーぜ!』
夜久君が、そう言う。
『扉が開くとこ、後ろから撮るから、
二人、腕、組んで!』
『ほら、』
黒尾さんが、腕を差し出す。
ウェディングドレスを着て
黒尾さんと腕を組める日が来るなんて、
…夢みたい。
後ろから、パシャリとシャッターの音。
『では、行きますか。』
白と金色の大きな扉を
夜久君と花巻さんが開くと
そこに、
みんなが、いた。
みんな。
ポラロイドに写っていた、みんな。
…涙が、溢れた。