第27章 ウェディングプランナー
その日。
私の最後の出勤の日、
予定より少し早めに職場に行った。
6月にしては珍しく青空が広がっていて
通いなれたこの白い建物が眩しく見える。
…改めて見ると、
そこはとても大きく堂々と、
そして清らかであたたかな存在感で。
幸せを包み込むのに
ふさわしい場所に見えた。
私も今日、ここで花嫁になる。
その前に、
デスクを片付けに、事務所へ。
ここに座って、8年。
たくさん失敗をしながら
周りの人や新郎新婦に育ててもらった。
机にある私物をひとつひとつ、
段ボールへ入れていく。
…どれにも、思い出がいっぱいで。
青城四人組の皆さん、
梟チームの皆さん、
夜久君たちと撮った写真。
エリさんからもらった香水。
…仕事で行き詰まった時、
なんども眺めて励まされたっけ。
使ってたマグカップや
小さなぬいぐるみ、
キャラクターつきのボールペンは
新婚旅行のお土産に、と
新郎新婦が買ってきて下さったもの。
ポストカードホルダーには、
いただいたお礼状や
"結婚しました"
"子供が産まれました"の
写真入りの年賀状がたくさん。
ひとつひとつ
片付けながら
辞めることを実感していた。
ここに来ない毎日が、
想像できないよ…
『…ちょっと、淋しい、な。』
後ろから声がして振り向くと
夜久君が、立っていた。
『早瀬がいなくなったら、
誰とケンカしたらいいんだろ。』
『ケンカしなきゃいいじゃん?』
『そんなの、つまんねー。
いいストレス解消だったのになぁ(笑)』
笑う。
ここで夜久君とこうやって
無駄口、叩くのも終わり…
『さてと、片付いたか?』
荷物の入った段ボールを
夜久君が抱えてくれた。
『んじゃ、そろそろ行くか。
花巻君たち、来てるぞ。』
『うん…ね、夜久君、』
『あ?』
『…笑わないでね。』
『…わかんねーな。笑ったらごめん。』
『笑ったら、
ただじゃおかないから覚悟しててね…』
よかった。
『笑わねーよ、プロだから。』
…なんて、真面目に答えられたら
私、泣いてしまいそうだった。
夜久君は最後まで、
変わらず、こういう仲間でいてほしい。
ブライズルームの扉を開く。
"女性"が"花嫁"に変身する
ブライズルーム。
今日、この部屋は
私のための部屋。
夢がいっぱいの
魔法の部屋。