第27章 ウェディングプランナー
『もしお客さんが同じ事言ったら、
プランナーとしてなんて言う?
"私、30過ぎてるし、髪、短いし、
貧乳だから、ドレス、着ません"って
お客さんが言ったらさ?』
『…必ず似合うドレスがありますよ、って。
最高の衣装部とヘアメイクスタッフが
絶対、輝かせます、って。
花嫁には、魔法がかかります、って。』
『…だろ?
お前が一番、知ってるじゃん。
俺らを信用しろよ。』
…言葉が、出ない。
『男にとってさ、』
今日の夜久君は、よくしゃべる。
優しい声で。
『自分の大事な人が
自分の隣で輝いてる姿、見られるのって
すげー、誇らしいんだってば。
"やっと、この笑顔させてやれた"って。』
『夜久君も、思った?』
『思った、思った。忘れらんねーよ。
絶対、幸せにするぞ、って。
コイツのために頑張るぞ、って。
…頼むよ。クロにも、その気持ち、
味あわせてやって。男の覚悟と幸せ。』
…なんでだろ。
心が、動いた。
『…笑わないでよ?』
『ばっか!』
もう。
なんで今日の夜久君、
そんな優しい顔、すんのかな?
『笑うわけ、ねぇだろ?
俺達、プロだぞ?最高の仕事、するよ!』
一瞬、思った。
"仕事、辞めたくなくなっちゃうじゃん"
長い間、ここが私の唯一の居場所で
夜久君は、私の同期で仲間だった。
ケンカもたくさんしたけど、
最高の、仲間だった。
…私もここで、もっと、
結婚式の仕事、続けたかったな…
何かを手放さなければ
新しいものを手に入れられないと
わかってはいるけれど。
…いけない。迷わない。振り返らない。
『わかった!
笑わない、って約束してくれるなら
黒尾さんと写真だけは撮る!
…段取り、自分でした方がいい?』
夜久君が、また、笑う。
『そんなん、いいって!
上に話、通したり、発注書書いたり、
俺、するから。
早瀬は今残ってる件名と引き継ぎ、
あと、何より、自分の健康管理!』
…ありがとう。
辞めるときになって
周りのありがたさに気付くなんて、
遅いよね。
せめて、
ドレス姿を
笑われないように、
職場を去る日に
迷惑をかけないように、
そしてその日を
黒尾さんとのいい想い出に出来るように
私にできることをしよう。
結婚式は、
"幸せのお裾分けの日"で
"みんなに感謝を伝える日"だから。