第27章 ウェディングプランナー
作業を始めて
一時間ほどたっただろうか。
『うん、出来た!
これが俺のアキのイメージ。』
『…焼酎とか焼きイカとか
カレーとかバナナの匂いじゃ
ないですよね、まさか。』
『あ、そっち系の方がよかったか?』
『ちょっと!』
黒尾さんを軽くにらむ。
なんだかおかしくて、
思わず二人とも笑う。
そして、手首に1吹き。
サッパリしたキレの良い
フルーティーな(バナナじゃない 笑)
香りの奥に、
なんだろ、ふわっと…
…あ、花のようなやわらかさ。
『仕事でもつけられるように、
ふんわりとスッキリをあわせてみた。』
こんな風に見てもらえてるとしたら
すごく、すごく嬉しい。
『よかった!
男らしく仕上がってたら、とか
食いしん坊イメージで出来てたら
どうしよう、って心配でした。
…はい、これ、どうかな…』
私が調香したものを、黒尾さんの手首へ。
『んー、気持ちいい香り!』
シトラスマリンの爽やかさに
都会的なシャープな香りを。
さらにほんの少しだけ、色気のムスク。
『…あの、モテそうな香りで、
ちょっと心配な気もしてるんですけど…』
『ばぁか(笑)
これつけてる間は、
アキに監視されてるようなもんだから。
他の女を近寄らせない香り、だろ?
蚊取り線香、的な?』
『えーっ?ヒッドーイ!』
『うそうそ。監視じゃなくて、』
耳元に、口が近付く。
『アキがいっつもそばにいるって思えるよ。
…こんな嬉しいおそろい、
思い付いてくれて、ありがと、な。』
気持ちをやりとりできる贈り物。
気持ちを素直に伝えられる言葉。
今日は誕生日でも記念日でもないけど
それでもきっと、
忘れられない1日になる。
…今は、
時々しか一緒にいられないから
いいところばっかり見えるのかも。
毎日、一緒に暮らし始めたら
きっとこんなことばかりではない。
だからこそ。
振り返ってすぐ思い出せるような
小さな幸せや
嬉しい思い出を
たくさん作っておきたいと思う。
"一緒にいられるだけで幸せ"
…そう思えた二人の記憶を
あちこちにたくさん散りばめて、
気持ちがささくれた時は
そこで一旦、
心を休ませてあげられるように。
記憶は少しずつ薄れていくなら、
せめて、
"一緒に生きていこう"と
決めた日のことだけは忘れないように。