第27章 ウェディングプランナー
タオルの冷たさのせいか
思考も心もどんどん冷えて
ヤバイ、心も目の前も真っ黒。
…そう思った時、
ピンポーン
やけに明るい音が部屋に響き渡る。
タオルをはずしてスマホを見ると、
黒尾さんからのLINE…瞬速で開く。
"何してる?泣いてない?"
もう。
これだけで、また泣けてくる。
でも、泣いてる、とは言わない。
…言えない。私が選んだことだから。
"泣いてない"なんて
ウソはつけないけど、
"泣いてた"なんて言って
心配もかけたくない。
だから、真ん中の答えを。
"黒尾さんのこと、考えてました。
今、どの辺りですか?"
"広島通過。
野球のスタジアムが一瞬見えた"
"もうすぐ九州上陸ですね"
"うん。着いたらまた連絡する"
"乗り過ごさないように…"
"大丈夫。アキのこと考えてるから
居眠りなんかしないよ"
"連絡、待ってます"
…笑顔のスタンプを送ったら、
すぐに、
黒猫がOKマークをしているスタンプが届いた。
カタン…スマホをテーブルに置く。
…しっかりしなくちゃ。
辛いのは同じ。
大変なのは黒尾さんの方。
ビールを持って、ベランダへ出る。
スリッパ。
いつも左足は黒尾さんがはいてたのに
今日は両方、並んでて。
…何を見ても寂しいな。
前、失恋したときも、こんなだったっけ?
不思議なことに、あまり覚えていない。
全部、黒尾さんが
幸せな気持ちを上書きしてくれたんだ。
プシュ…ビールの缶を開ける。
始まったばかりの遠距離恋愛。
いつまで続くかわからない遠距離恋愛。
どんな結末になるかわからないけど…
この選択を後悔しないために、
私、仕事、頑張ろう。
ゴクゴク、とビールを飲み干し、
ソファで黒尾さんからの連絡を待った。
…黒尾さんからは、
夜、10時過ぎに電話があった。
晩御飯にラーメンを食べたこと、
新しい部屋の話…そんなことを話す。
『窓の外、何が見えます?』
『なんだろ…ちょっと待って。』
カラカラ…窓を開ける音。
『…あぁ、月がでてる。そっちも見える?』
私も急いでベランダへ。
『見える!かじったクッキーみたいな月。』
ハハハ…と笑う声。
『月とクッキー見る度に、アキを思い出すな。』
うん、上、向いて、暮らそうね。
遠いけど、空で繋がってるもんね。