第27章 ウェディングプランナー
もう、閉まっただろうか…
少し急いで角を曲がると
ちょうど大将が、暖簾を下げに
出てきたところだった。
『もちっと働かねーの?』
声をかけると、大将が振り向く。
『お、モテ男の貧乏神か。
黒尾さんが来ねーおかげで、
今日は大繁盛でさ(笑)
ネタがいくつか切れちまったから
早じまいするとこだったけど。
仕込みの間、飲んでくか?』
カウンターに座る。
『何飲む?』
『ノド、渇いた。ビールと…
なんでもいいや、おでんのハンパな残り、
適当に頼んでいい?』
『ノド、渇くようなことがあった?』
大将に、今日のことをザーッと話した。
監督命令で彼女を送るハメになったこと。
トーコ達に出逢ったこと。
完全に終わったこと。
…彼女が、終わらせてくれたこと。
手を繋いだこと。抱き締めたこと。
約束して、見送ってきたこと。
今、すごくスッキリしてること。
『そぅか。じゃあ、もう俺が彼女を
体をはって慰めてやるチャンスは
なくなっちまったってわけか。』
『わかんねーよ。
彼女から大将に言い寄ってくるかもしんねーし。』
『希望は捨てないでおこう(笑)
…次もビールかい?』
『焼酎で。…あ、そういえば。』
彼女に言われたことを話す。
大将は、経験値が高そうだから
個性的な焼酎を選んだそうで、
俺は…当たり障りなくテキトーに、
広く浅く、深入りしなさそうに
見えてるらしい、と。
『へぇ、おもしれぇな。で、その評価、
黒尾さん、自分で納得いくのかぃ?』
『…悔しいけど、納得いくんだよなぁ。
来るもの拒まず、去るもの追わず
ってのが、今までの基本パターンだった。』
『で、今回初めて、
人妻には手痛くフラれるわ
珍獣を追いかけたくなるわ、と。
新しいパターンに挑戦中、ってとこか。』
『…言われ方はどーかと思うけど(笑)
ま、そういうことだよな。』
『…飲みな。これは、サービス。
俺の個人のボトルだから。』
差し出された焼酎を飲んでみると、
『あ、これ…』
『そ。彼女がくれたヤツ。
気に入ったから自分用に買った。』
『店には、出さねーの?』
『…ホントにとっておきはさ、
こっそり楽しみたいっていうか。
自分だけが知ってる、っていう快感?』
『…ん?この前より飲みやすい。』
『なんも変えてねぇよ。
黒尾さんが変わったんだな、きっと。』
