第27章 ウェディングプランナー
手を繋いだまま真っ直ぐ歩き、
大きな交差点を曲がった。
もう、どんなに振り返っても
駅は…トーコは見えない。
ふぅっ…と息を吐き、
小さな声で、彼女が言う。
『黒尾さん、勝手してすみませんでした。』
彼女が、手をほどこうとする。
『離さねぇ。』
力の抜けた手を、指を、強く握りしめた。
『…黒尾さん?』
思わず、言う。
『俺はあんたの前の彼氏とは違う。
自分の都合で手を離したりしないから。』
『…わたし、』
力なくうなだれる彼女に
ドン、と、通行人がぶつかる。
『チッ、邪魔!』
すれ違い様に吐き捨てられる言葉。
…避けさせてやれなかった。
俺、次から次に、嫌な思いさせてる…
力の抜けた手をひいて、
ビルの隙間に入り込む。
『…なんだよ?』
『わたしは、どうやったって、
トーコさんには勝てないです。』
『…え?』
『キレイな人だった。
美人で、スタイルもよくて、
指の先まで、キレイだった。
きっとフラれたことなんかないんでしょうね。
…男の人は、みんな、あんな人が好き。
ご主人も黒尾さんも、何があっても、
手離したくないわけですよ。』
俺が握ってる手を、自分で見つめてる。
短く切り揃えられた爪。
色味もつかず、光る指輪もない、
シンプルな、手。
『黒尾さんの横にいると、
勝手に自分とトーコさん比べてがっかりする…
ひがみ根性まるだしで
なんか、すごくヤな女です、私。
だから…手、離してください。』
『いやだ。』
『…さっきぶつかった人も、
もしぶつかったのがトーコさんなら
きっと立ち止まって、
"大丈夫ですか?"って声かけるんですよ。
邪魔、なんて、絶対、言わない。』
…あぁ、ぶつかられて痛かったのは
体じゃなくて、心、なんだな。
ちゃんと、いるよ。
心配してる人間が、ここにいる。
『大丈夫だったか?痛くなかった?』
力が入らないままの手と体を引き寄せ、
抱き締めた。
…ビルの谷間に、風が吹く。
抱き締めた彼女から、新しい服の匂い。
彼女の抱えてる紙袋の中に
くるんとまるめた私服とクツが見える。
もしかして、
会社からさっきの店に来るまでに
新しい服、買って、着替えて来た?
…コノヤロ。女の子、じゃねーか。
ちゃんと、俺が、見てるから。
『この服、すごく、似合ってる。』