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ウェディングプランナー(R18) Hi-Q

第27章 ウェディングプランナー



俺が
トーコの旦那への敗北感で
思考停止になった時、
彼女は、トーコ達の反対の方、
…駅とは逆方向…に向かって、
俺の背中をそっと押した。

促されるままに、歩きだす。

数歩、進んだだろうか。

ふいに、彼女が、俺の手を握った。
ただの手繋ぎじゃない。
いわゆる"恋人繋ぎ"という、
指を1本づつ絡める繋ぎかた。

さらに、少し頭を俺の方に寄せて
よりかかるようにして歩く。

いつも、
あんなに、手を繋ぎたがらないのに。
あんなに、並んで歩きたがらないのに。

俺の心の疑問に答えるように、

『黒尾さん、』

今までになく真剣な声で。

『ちょっとだけこのまま、
彼氏のフリしてて下さい。
お願い、振り返らないで。』

『…どうした?』

まるで甘い言葉でも囁くように
彼女は、俺を見上げて目を見つめ、

だけど声だけは変わらず、真剣に。

『トーコさんは、必ず1度、こっちを見ます。
その時、黒尾さんが幸せそうでいてあげないと。』

…あぁ、そうか。
俺のことを気にかけずに
トーコにはトーコの道を
歩んでもらうために、か。

『…あんた、手…』

『これは、手を繋いでるんじゃないですから。
黒尾さんが、トーコさんを追いかけて
走り出さないように、っていう、綱。』

『綱だと?!…コノヤロ、人のこと、
ケモノみたいに。』

『そう。狂犬。暴れ馬。闘牛。
捕まえておかないと、怪我人が出ます。』

顔を見合わせて、笑う。

…もしトーコが振り返るなら、
今、この瞬間を、見てほしい。
手を繋いで、顔を見合わせて笑う二人を。

一歩進むたびに、
トーコとの距離が開いていく。
でも、不思議と苦しくはない。

完全に、終わった。

確かに、わかったんだ。

トーコは、
俺がいなくても幸せになれる。
俺とトーコの縁の結び目は、
もう、完全に、ほどけた。

大将の言葉を思い出す。
どんなにタイプでも、
ヨソの女はヨソの女。

そして
"何もない"と"縁がない"は
違う、ということ。

…今日だって、
俺が一歩、血迷えば
修羅場になるところだった。
それを"何も起こらない"ままで
済ませてもらえたのは、

大将が言っていた『相性のひとつ』
なのかもしれないと思う。

今、ここにいる、彼女の。


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