第27章 ウェディングプランナー
『おい、待てよ!』
角に消えていきそうだった彼女の背中が、
ビクン、と止まる。
逃げ出さねぇだろうな?
走って追い付いて、肩をつかまえた。
『…なん、ですか?』
『ほら、この間の焼酎、
あれ、ちゃんと届けたから。
大将、すごく感心してたぞ、
選び方がうまい、ってさ。
あんまり褒めるから
俺もちょっともらって飲んだ。』
『…黒尾さん、
あんまり好きじゃなかったでしょ?』
『好きじゃない、っていうか、
初めてのタイプだったから、
どう飲んだらいいかわかんねー、って感じ?
でも、慣れるとクセになるんだろうなぁ。』
彼女が、笑う。
『あぁ、びっくり!
私が思ってることと同じです!
大将みたいに経験値が高い人は
ありきたりじゃ面白くないだろうと思って、
わざとクセの強いの、選んだんです。
あっちに慣れると、ハマりますよ~。
…ま、でも、慣れる必要もないか。
いつも飲んでいらっしゃるの、
すごく黒尾さんらしいですし。』
"経験値で味を選ぶ"?
面白いことを言うな、と思う。
…そして、気になるわけで。
『俺らしい、って?』
『うーん…オシャレであっさり。
ワインもビールもカクテルも好きな人が
とりあえず焼酎も、わかりやすいとこに
手をだしとくか、って選ぶ感じ。』
『…なんか、チャラくね?』
『チャラくはないですけど(笑)
自分からは深入りしなさそうな。
浅く、広く…かな?』
なんだ?
なんか…胸をえぐられた気がする。
焼酎の話だってわかってるんだけど。
とりあえず、
わかりやすいとこに手を出す?
深入り、しない?
浅く、広く?
…なんだか、
自分の人生を見透かされてるようで。
三回、結婚と離婚をして
そのどれも、
"運命の大恋愛だった"と言いきり、
どの女も幸せにしてやれなかった、と
はっきり認めて、
そして、さらに今でも
もし目の前の彼女が一人で来れば、
抱いて楽しませてやる自信がある、
…と言いきる、
男として圧倒的な経験値をもった
大将の人生とは
正反対の、俺。
『…なんか、悔しいな。』
『え?』
『あんた、大将のことも俺のことも
なーんも知らねぇはずなのに。』
『…私、何か悪いこと、言いました?』
『いや、』
胸が、グシャグシャする。
…その時だった。
通りすぎた人影が、
立ち止まり、俺を、呼ぶ。
