第27章 ウェディングプランナー
『えー、クロ、帰るのー?』
『黒尾、後で来いよ!』
『テツロー、待ってるぅ。』
…追いかけてくる声には答えず、
ヒラヒラと手だけ振って
彼女と店を出た。
きっと彼女は、今からこう言う…
『黒尾さん、ご面倒かけてすみません。
私、ホントに大丈夫ですから。
お友達の所に戻ってください。』
…ほら。一言一句、思った通り。
だから、俺も、思った通りに答える。
『ダーメだ。監督の仰せ付けだからな。』
『でも、私、ホントに
まだほとんど飲んでないから。
今日は正真正銘、真っ直ぐ歩けます。ほらっ!』
早足でどんどん先に行く。
それは、歩いて見せてる、というより
俺から離れたくて。
…そんな風に見える。
今日も、並んで歩かない俺達。
…この間、
大将にいろんなことを言われてから
ずっと、考えた。
俺なりに、いろいろ考えた。
それでもやっぱり、自分が彼女に
"恋をしている"(←この言葉を考えただけで
なんか、居心地がわりぃ…)という実感は
全然ピンとこなくて。
結局、
『流れに任せよう』と思った。
他に出会いがあればそれもアリだし。
誰とも何もなければ、
それはそれでいいし。
もしまた彼女に会うことがあれば、
その時の出来事に身を任せよう、と。
そして今、
俺は彼女の背中を見守りながら
夜の街を歩いている。
気がつけば、彼女に会うのは、
いつも、夜だな…
あの角を曲がって
大通りを横切って
繁華街を抜ければ
駅は、間もなく。
どうしようか。
俺もこのまま電車に乗って、
家に帰ってしまおうか?
それとも電車に乗るところまで見届けて
俺はもう一度、みんなと飲み直すか?
とりたてて話すこともないしな…
いや、あった。
これだけは、ちゃんと伝えておかないと。
配達人の任務が完了しない。
『おい、待てよ!』
先に一人で角を曲がってしまいそうな
彼女の背中を、急いで追いかけた。
一人であの角を曲がらせたら、
もう、会えなくなる気がして。
自分でも気付かないうちに、
走って、追いかけた。