第27章 ウェディングプランナー
『黒尾?…黒尾!ちょっと来なさい。』
猫又監督の声に、
何事かとやってきた黒尾さん。
…私の横に立つ大きな影に
目を向けることが出来ない…
『黒尾、家は音駒谷線か?』
『はい、そうです。』
必死に割って入る私。
『監督、あたし、大丈夫ですから!
まだ10時前だし!そんな飲んでないし!
余裕で一人で帰れます!』
全く気にしない監督。
『早瀬さんを駅まで送りなさい。
年頃のお嬢さんを一人で歩かせては
私が気が済まないからね。』
『年頃のお嬢さん?ククク…』
と笑った夜久君を蹴飛ばそうと思ったら
夏希ちゃんが横でつねってくれてる。
夏希ちゃん、GJ✌
『黒尾、いいね、頼んだよ。』
『あの、監督、黒尾さんはまだこれから
皆さんで飲まれるから、私はホンット…』
『はい、わかりました。』
ええええー( ; ゜Д゜)ッッッッッ
夏希ちゃんにつままれた脇腹を
さすりながら、夜久君が言った。
『早瀬、言っただろ。
飲んだ時の監督命令は絶対。な、クロ。』
な、クロ、じゃないんですっ(>_<)
もう、頭のなかは顔文字だらけの私。
『監督の指示なら俺はいつでも従うし。
それが音駒のキャプテンの仕事だからな。』
…うぇーん(T_T)来なければよかったぁ。
せっかく時間かけて
黒尾さんを想い出にしたのに…
焼酎に欲を出したばかりに
振り出しに戻ってしまった(涙)
人生ゲームだったら、"負け確定"だよ…
もう、でも、抗えない。
とりあえず、ここを出よう。
そして早く駅まで行こう。
とにかく、心にしっかり鍵かけて。
余計なことを考えないように。
優しいことをされないように
自分のことは自分でしっかりと。
三次会に流れる人。
家に帰る人。
連絡先を交換する人。
写メを撮る人。
みんなそれぞれに
動き始めたのをきっかけに
私も立ち上がる。
『猫又監督、ありがとうございました。』
『うちの孫が結婚するときは頼むよー。』
『はい!またご一緒させて下さい!』
気がつけば、黒尾さんが後ろで待っている。
…落ち着け、心臓。
ただの、ちょっと背が高くてオシャレで
イケメンで優しいお兄さんだ…
『行くか?』
『すみません、では駅まで…』
店のざわめきを背にして、歩きだす。
夜の光の中へ。