第6章 ウェディングブーケ
(エピローグ)
あの二人には、
そのままホテルに泊まってもらうことにした。
もちろん、ディナーも予約してある。
…お金は及川に払ってもらうけど。
一人で帰る俺を、
プランナーさんが、見送りに来てくれた。
『急だったのに、
いろいろありがとうございました。』
『いいえ、私は羽根をふらせるスイッチを
押しただけですから。』
『そんなことまでして下さったんですか。
俺、中は全然見てないから何も知らなくて…』
『すっごくステキなプロポーズでしたよ。
やっぱり及川選手、何をしても絵になりますね。』
『あ、そういえば、
ブーケまで準備していただいたみたいで。
実費、払いますから請求して下さい。』
『いいんです。たまたまなので。』
『たまたま?』
『今日の昼間、披露宴をされた新婦様が
私に下さったんですよ、"幸せのお裾分け"って。
ウェディングブーケをもらった女性には
次に幸せが訪れるっていうでしょ。
でも私、残念ながらそんな予定、全くなくて。
それなら、すぐ間近に幸せがきてる方に
役立ててもらったほうがいいかな、と
思ったものですから。それに…』
『?』
『あれ、チューリップのブーケだったんです。
チューリップって、西洋の花言葉は
"理想の恋人"と"名声"なんですよ。
お二人にピッタリじゃないですか?』
…それは確かにあの二人にピッタリだ。…
『そんな特別なブーケだったんですね、
ありがとうございます。
じゃあ、プランナーさんが結婚するときは、
教えて下さい。
及川と早瀬から
ブーケをプレゼントさせます、必ず。』
『ホントですか?!
早くそんな日がくるといいんですけど(笑)』
外に出ると、
大きな月が出ていた。
『月島様、気付いていらっしゃいましたか?
今日も満月なんですよ。
チャペルのお二人の向こう側、
ガラス越しにまっすぐ、月の道が続いてました。』
自分が結婚した日のことを思い出す。
…今日は上司もいないことだし。
このまま家に帰ろう。
俺のワガママを待ってる人がいるからね。
何を言って困らせてあげようかな。
あ、満月の夜か。
久しぶりにオオカミになって、
ベッドでいじめてあげよう…