第27章 ウェディングプランナー
その店は少し隠れたところにあって
探すのに手間取ってしまった。
まだ、いるだろうか?
明るい色の木製の階段を降り、
重たい木造りの扉をそっと押す。
へぇ。
フロアでは様々な焼酎が
テイスティングできるようになっていて、
壁際には、
いろんな大きさや形のボトルが
小さなスポットライトの中、並んでる。
そんなシックな空間の中に、
いた。
店員と話しあいながら
熱心にカタログと実物を見比べて
写メをとったりしている。
まるで、自分が誰か大切な人に
贈るものを選んでいるように、
とても真剣に。
しばらく遠くから見ていると
店員が席をはずした。
次の接客に行ったようだ。
声かけるなら、今。
俺はスマホを取りだし、
彼女の番号…この間の食事の帰り、
彼女のスマホを取り上げた時に
俺に発信させた…つまり彼女の番号も
こちらに残ってる、ってわけで。
後ろからそっと近づきながら
彼女の番号を鳴らす。
俺からの着信とわかって
明らかに不信な顔をして…
出るか?出ないか?
…出た。
10コールくらいしたけど。
迷いすぎだろ(笑)
『はい…』
『あ、早瀬さん、
おれ、今、左後ろにいるんだけど。』
ハァッ??…とでも言うような顔つきで
ものすごいスピードで振り向くから、
俺がスタンバイしていた人差し指に
彼女の左頬が突き刺さる。
プニュ。
音がしそうなやわらかい肌と
プーッと膨らんだ頬。
…おもしろいな。
敵を威嚇する魚みてぇだ。
『黒尾さん!?なんでここに?』
『偶然。』
完全に、疑いの眼差し。
『うそ、ですね?』
『ほんと。偶然。』
…追いかけてきた、とは言わず。
知ってるけれど、一応、聞く。
『何してんの?』
『あ、そうですよ!』
…さっきまでの疑いの眼差しから一転。
シャキッとした…仕事モード?…顔で
話しかけてくる。
『黒尾さん、ここにいるということは、
焼酎、飲むんですよね?』
『初心者だけどな。』
『夜久君の代わりに、
監督さんへのギフトを探しに来たんです。
黒尾さんもご存じですよね、猫又監督。』
『もちろん。』
『じゃ、一緒に考えて下さい!
予算の配分からしたら、
中身と外、どっちにお金かけましょうかね?』
それはそれは、イキイキと。
"あの時"の闇の顔と正反対の。
…どっちが本物の彼女だ?