第27章 ウェディングプランナー
『銀座か…』
スマホをポケットに入れて空を見上げる。
オレンジに薄い紺が覆い被さって、
街があっという間に夜の顔に変わる時間。
俺も、昼の顔は終わっていいよな。
昼の顔は、
おりこうさんなサラリーマン。
夜の顔は、上司の妻を寝取って
最後はフラれるバカな男。
…そう、
バカな男になっていい時間だ。
もう一度スマホを取りだし、
社にノーリターンの連絡をしてから
電車を乗り換えた。
行き先?
銀座。
今なら多分、間に合う。
…行ってどうする、なんて
全く考えてない。
純粋にその店に興味があるし、
不純だけど
彼女がもう一度俺の顔を見たら
どんな反応を示すのか興味があるし
…もひとつ不純だけど
この間"飯の相手くらい、つきあうよ"
と言った俺の方が、
今日は、飯を食う相手が欲しかった。
理由?ある。
今日はこのあと、
上司…トーコの旦那…の
帰国祝いの飲み会だから。
行きたい、わけがない。
"所用で欠席"にしたけど
もし一人で家にいたって
絶対、ロクなこと考えない自信がある。
研磨や夜っ久んは妻帯者だ。
急に飲みに誘うのも気が引ける。
女、抱きに行っても、
多分、明日はまた自己嫌悪。
…そんな時に聞いた"銀座情報"。
救われた、と思った。
目的が、出来た。
ほんのいっときでも
一人にならずに済む。
女として、とか
友達として、とか
そんなことはどうでもいい。
俺の"今夜の行き先"を逃したくなくて
電車を降りた。
…小走りになりそうなのは、こらえた。
会いたくて行くわけじゃないから。
歩いていって間に合えば、縁。
間に合わなければ、それまでのこと。
少しだけ歩幅が大きくなってるのは、
…自分で気づかないふりをした。
今日も、街は、星屑のきらめき。
俺は、相変わらず、一人。
でも、今日は、行き先がある。
もう一人の "一人" を捕まえに。
周囲を歩く人波より
少し早いスピードで、
俺は、銀色の町をくぐり抜けた。