第27章 ウェディングプランナー
黒尾さんは、聞き上手だ。
夜久君や夏希ちゃん、
今までここで披露宴をして下さった
音駒の皆さんのことなど
結構、共通の話題もあって、
そこそこ会話も盛り上がる。
『ところで黒尾さん、今日のパーティ、
何かいい出会い、ありました?
研磨さんと夜久君が
"そういえば、クロの女性の好みって
案外知らない"…って話してましたよ。』
『俺の好み?』
んー…としばらく考えた黒尾さんは
『ショートヘア、かな。』
『…ざっくりした説明ですね(笑)』
『そうか?あとは、まぁ、女であること。』
『ますますざっくり(笑)
ストライクゾーン、広すぎです。』
『俺、博愛主義者だから~。
…そういう早瀬さんは?
あ、もしかして既婚者?』
私の左手の薬指をちらりと見て。
『…ってわけでもなさそうだな。』
久しぶりだな、この手の話題。
この話になったら必ずこう答えてきた。
『もう、ヒトサマの幸せに手一杯で
自分の色恋、ずいぶん、ご無沙汰です。』
『自分のことは後回し?』
『後回しどころか、
一生、順番まわってこないような
気がしてますけどね(笑)』
『ふーん、じゃあさ、』
黒尾さんが、
試すような顔で私を見る。
長めの前髪からのぞく
一重の切れ長の目に真っ黒な瞳。
ニヤリと笑うと片方だけ上がる口元。
ほっそりとした首筋に
くっきりとした喉仏。
そのすべてを少し左に傾けて
頬杖をついて。
言葉をため、
試すようにじっと。
多分、ものの2~3秒。
だけど
こちらを戸惑わせるには十分な時間。
…自分がセクシーだってわかって
こんなことしてるんだろうか?
一瞬、身構える私。
それは、
今までの失敗で身に付けてきた、本能。
気を許したら、心を奪われる。
そう思った時に、言葉が届いた。
『何でも頼んでいいなら、
早瀬さんを注文しようかな。
…おいしいかどうか、試してみたい。』
ブクリ。
身体の奥に、
マグマが沸き上がった気がする。
からかわれてるのは、わかってる。
本気じゃないのも、わかってる。
社交辞令だって、わかってる。
だけど。
そういうの、
誰にでも
簡単に言っていいことじゃない。
私にとってそれは
今、一番の、問題だから。
生憎、私はそれほど
清らかでも無邪気でもなく。
『…黒尾さん、』