第6章 ウェディングブーケ
ベッドではあれほどイジワルな及川。
でも、
一旦コトが終わると、とたんに甘えてくる。
『ね、早瀬、やっぱり名前呼んじゃダメ?』
『ダメ。』
『外では絶対呼ばないから。
せめてベッドではアキって呼びたいし、
早瀬にもトオル、トオル~って乱れて欲しいっ!』
『ダメなものはダメ。』
『なんでさ?
あんなに恥ずかしい格好見せといて、
今さら名前呼ぶくらい、いいじゃん!』
『名前は、大事なの。
ストレス解消と欲望だけで
上司を犯すような男に呼ばせたくない。』
『そんな、鬼みたいに言わなくても…』
『…ごめんごめん、言いすぎた。
及川徹は、いろんなものを犠牲にして
ここまできたんだもんね。
君は宝物よ…みんなの、ね。』
『じゃ、俺のワガママ、きいてよ…
名前呼んで…一緒に…』
『…それは、
本当に大事な人のためにとっておいてあげて…』
…寝息が聞こえる。
練習のときのギリギリの顔でも
試合のときのイキイキした顔でも
女性の前でのキラキラした顔でも
ベッドの上でのギラギラした顔でもなく、
おだやかな寝顔。
これが、彼の素顔。
サラサラの髪をなでながらつぶやく。
『ごめんね。
名前呼ばれたら、私、
あなたに心まで持っていかれちゃうから…』