第6章 ウェディングブーケ
早瀬さんの最大の誤算は、
予想以上に
及川が魅力的だったことだそうだ。
『それって、及川さんが…その…
セックスがうまい、ってことですか?』
『なんで勤務中に
こんな話してんのかしらね、私達(笑)』
早瀬さんは、遠くで練習している
男子チームに目をやった。
~最初は、奇妙な約束から始まった
大人の体の関係。
だけど、早瀬さんの目に映る及川は
孤独と不器用さに溺れてしまいそうな
少年のようだったそうで…
“どんな試合をしても納得できない“
“人気はいつまでも続かない“
だから、
バレーを失いたくなくて、恐ろしいほど練習する。
人気があることを実感したくて
自分から女性に近づき、自分から別れる。
まるで
かまってもらいたくてたまらない
子犬のように。
一方、
世間のイメージとは別人のように
自分の前では
わがままを言ったり甘えたりしながら
絶妙なバランスで
年上心を刺激し、
激しく体を求め、
そして全てをさらけだしたまま
クッタリと眠る及川を見ているうちに…
『なんか、認めたくないけど、
母性が芽生えちゃったのかしらね。』
『でも、それって…仕事、越えてるデショ?』
『いやいや、ちゃんと仕事なのよ。
及川がバレーに専念出来る環境を作ることも
私の仕事だから。』
『…早瀬さん、それでいいんですか?』
『いいわよ、もちろん。
及川が輝くための手伝いなら喜んでするわ。
彼が誰か一人をパートナーに選ぶまでの
仕事上の関係ってことで。』
『…』
『あ、月島君、今、私のコト、
"不幸っぽい"とか思ったでしょ?』
いや、違う。
そんなことは思わない。
ただ、
『それは母性じゃなくて
“恋愛感情”っていうんじゃないですか?』
とは思った。
…思ったけど、言えない。