第4章 銀狐と少女【はたけカカシ】
あるときから狐の面を捨て、上忍師となることになった。
といっても、今までの候補生は仲間を大切にしないクズばかりで、部下をもったことはまだない。
今年は九尾のガキと、うちはの生き残りがいる班を担当しろとの命令だ。
危険分子のお目付役とは、三代目も相変わらず俺に面倒なことを押し付ける。
だからといって、俺の試験に合格しなければ奴らもアカデミーに逆戻りだ。
仲間を大切にしないヤツと、言いなりにしかなれないヤツは、俺の部下にはいらない。
アカデミー教室の扉を開けて、わざと黒板消しのトラップに引っかかってやる。
大笑いする九尾のガキと、心配する素振りを見せるピンク髪のくノ一、そして怪訝な目を向けるうちはの生き残りの姿を目に留めて、思う。
ただのガキか…今回も期待は出来ないな。
呆れと失望の思いに偽りの仮面をかぶり、俺はニコリと笑った。
「んー……なんて言うのかな。お前らの第一印象はぁ……嫌いだ!!」
「……ごめんなさい先生…大丈夫ですか?」
俺の言葉にショックを受けるガキ達の中で、一番に駆け寄って来た少女。
ハンカチを持ち背の届く範囲で、俺の身体についた黒板消しの粉を懸命に払うその子は
かつて俺を「きつねさん」と呼び、笑いかけてくれた空風上忍の娘だった。
こういうのは上から払わないと意味ないでしょ。
なんて、いつもの俺なら嫌味を込めて言っていたはずなのに
大丈夫だよ、なんて、考えるより先に言葉が出ていて。
安心したように笑う彼女の輝きは、昔と何も変わっていなかった。
あのあとーーー
二年も経たないうちに父親を亡くし、幼い心に悲しみと寂しさを抱えたはずの少女は
それでも、前を向き続けている。
『後ろばっかり見てんなよ』
そう俺に言ってくれた、空風上忍の笑顔を思い出した。
彼女の眩しい笑顔に一瞬躊躇って
でも
「ありがとね」
そう彼女に、正面から笑顔を返せた俺は
少しは、成長出来ただろうか。