第36章 ブルー・ローズ*ゼノ*
馬車に揺られ、辿り着いたのはフィオーラという国。
ウィスタリアともシュタインとも良好な関係を築いてくれている国だ。
特にシュタインとはゼノ様が幼い頃から繋がりがあり、国王はゼノ様を実の息子の成長を見守るかのように大事にしてくれた、とのこと。
今回はゼノ様と私が婚約したとの公の発表を受け、お祝いをしたいと招待してくださった。
城が視界に入ってくるのを眺めながら、私は少しだけ速まる胸の音を感じていた。
「、どうかしたか?」
表情が少しこわばっていたのか、隣に座っていたゼノ様は私の様子に気付いて、声をかけてくださった。
「…ゼノ様と二人でフィオーラに来られるなんて…嬉しいんですけど、少し緊張してしまって。」
「緊張する必要はない。お前はいつも通りで十分だ。…笑ってる顔がよく似合うからな。」
そっと手を握ってくださると、温もりが伝わって安心した。
優しく響く、低くて穏やかな声。
ゼノ様の言葉一つで、ぎゅっと強張っていた身体から力が抜けていくのを感じた。
「…ありがとうございます。」
自然と笑顔になると、ゼノ様は私の輪郭に手を添えた。
「そう、その顔だ。」
ゼノ様はそう言うと、私の頬に軽くキスを落とした。
不意打ちに驚いて、顔が急に熱を持って熱くなった。
「…お前は笑ったり赤くなったり忙しいな。」
「ゼノ様…からかわないでください。」
赤いままの頬を隠したくて、外の景色に顔を向けたら、またあの大好きな声で名前を呼ばれてしまった。
「。」
そろりと顔をまたゼノ様の方に向けると、顎を持ち上げられて、優しく唇が重なった。
「すまなかった。…お前の表情はどれも愛らしいと思ってな。」
柔らかなゼノ様の微笑みを見て、改めて思った。
私、こんな優しい方と一緒になれてよかった。