第32章 Love Letters*ジル*レオ*ゼノ*
〈ゼノ〉
セレモニーの賑やかさも終わりを迎えて、またウィスタリア城に穏やかな空気が戻った夜。
いつもより一際輝いて見える夜空の星をバルコニーに出て眺めていた。
星空を見る度に思い出すのは、ゼノ様と過ごした時間。
出会った時は私が城から抜けだした夜。
宣戦布告したのはシュタイン滞在中の夜。
星空の下で、私たちの関係は変わっていったのかもしれない。
「、風邪を引くぞ。」
その言葉と同時に肩にふわりと礼服の白いジャケットがかけられた。
聞くと安心する低くて優しい声にふっと笑みが溢れて、隣を見るとやはりゼノ様だった。
「ありがとうございます。」
「…物思いに耽っていたようだが?」
「…ゼノ様とのことを思い返していました。」
そうか、とただそれだけ呟いて、ゼノ様は私の肩を抱き寄せて、二人で寄り添うように星空を見上げた。
この一年も離れている時間は多かったけれど、ゼノ様が側にいてくださると常に心で感じていた。
「…お前とこうして星空を眺めたのは何度目かわからない程だな。」
「そうですね。…会えない時も星を見ればゼノ様との時間を思い出せるんです。」
セレモニーのためにお越しいただいたので、この後ゼノ様はまたシュタインへと帰ってしまう。
そのことを思い出すと、また寂しい気持ちが襲ってきた。
「、これを渡しておく。」
ゼノ様から渡されたのは、綺麗な小箱と手紙だった。
箱を開けると星と同じようにキラキラ輝くブレスレットが光っていた。
「綺麗…。ありがとうございます。」
「プリンセス就任一周年の祝いだ。…貸してみろ。」
ゼノ様はブレスレットを取り出し、私の手首につけると穏やかに微笑んだ。
「…よく似合っている。」
そう言うと、私の顎を掬いゼノ様は優しいキスを下さった。
もう一度唇を重ねていると、部屋の扉を叩く音がした。
「…時間だな。」
「ゼノ様、お送りします。」
「いや、ここまででいい。…またな。」
名残惜しくゼノ様の背中を見送った後、手紙を手に取り目を通した。
これからもずっとゼノ様の隣にいられるのは、私だけ。
そう実感出来るだけで、また離れ離れの日々を乗り越えられる。