第31章 4月12日*ユーリ*
「様、おはよう。ほら…起きて。」
頬に掠める唇の感触と耳元で囁かれる甘い声に導かれて、心地良い目覚めの時を迎えた。
「ユーリ…おはよう。」
声をかけると、ユーリは頭を優しく撫でて愛おしそうに触れてくれた。
「よく眠れた?」
「うん…。」
身体を起こしたものの、まだ眠たくて目を擦る私をよそに、ユーリはてきぱきとクローゼットの中から今日の洋服を数点ピックアップしてくれた。
「じゃあ着替えが出来たら呼んでね。髪の毛セットしてあげる。」
閉まる扉を見届けて、着替えながらふと思う。
いつも変わらない朝の光景。
つまりユーリは毎日執事としての仕事をこなしている。
私が休みの日でも変わらないし、私が公務で離れている時もジルの手伝いをしたり、城の細かい仕事もしている。
もうすぐユーリの誕生日。
ちょうど何をあげようか決めかねていた。
「…そうだ!」
着替えを終えてユーリを呼ぶと、部屋に入ってきたユーリはにっこり微笑んで満足そうな表情を浮かべていた。
「やっぱり可愛いね!様に似合ってる。」
鏡台の前に座って髪をセットしてもらいながら、鏡越しにユーリの方を見つめて声をかけた。
「ねぇ、ユーリ。お休み出来たらしたいことある?」
「え?うーん…。久しぶりに城下に行きたいかな。」
ユーリは手を動かしたまま少し考えて答えてくれた。
「じゃあ行っておいでよ!12日お休みにしてもらうから!」
「いいよいいよ。急ぎじゃないしね。」
「いいの。いつも頑張ってくれているユーリに、お誕生日はのんびりしてほしいの。」
本当は私も休みにして一日デートしたかったけれど、どうしても外せない公務が入ってしまって出来なかった。
私のあまりの押しの強さにユーリは少し驚きながらも頷いてくれた。
「そう…?じゃあお言葉に甘えてそうしてもらおうかな。」