第16章 たまには素直になるのも大事【帰省編③】
「こちらです、お嬢様…」
『ありがとうございます』
父上の部屋まで付き添ってくれた執事に礼を言うと、私はゆっくりと深呼吸をして目の前の扉を叩いた
「入れ」
『…失礼します』
そう言って部屋の扉を開けた次の瞬間、
バシッ
「ッ!?」
突然目の前に現れた父上は物凄い勢いで私に刀を振り下ろした
『な、何を!?』
間一髪でそれを避けた私は驚きのあまりその場に尻餅をついた
「フンッ…やはりな」
『え?』
「その身のこなし、真選組で培ったというわけか」
言いながら刀を鞘に収めると父上は無表情で私を見下ろした
「だが見ろ、己の今の顔を」
『え…』
言われるまま自分の頬に触れるとそれは赤く濡れ、目からは涙が溢れていた
「あの程度も避けきれず、真選組隊士とはよく言ったものだ。…それにその涙はなんだ…?」
『…』
「自分でも気づかないうちに流すのは心の弱い証拠ではないのか」
そう言って椅子に腰掛けた父上は私を見つめる
「結衣、お前のいる場所はお前が思う程良い場所ではない。人を救う、人を護るなんてのはただの綺麗事だ。…今みたいにいつ何時お前に刀を向ける奴が出てくるかわからぬぞ」
『…』
「勘違いしないことだ結衣、お前は強くない。お前が今日まで奴らといることが出来たのはお前自身が誰かに護ってもらえると思っているからだ。何度も言うがお前は女で、彼らとは越えられない壁がある。いざとなればそのように頬は赤く染まり、涙を流す…ただの弱虫に成り果てる…」
『…』
「まぁ、お前がこうしてここに戻って来たということは私の想いが通じたのか、お前自身が今言ったことを理解した…ということであろう。さ、そんな小汚い格好はやめて着物に着替えて来なさい。髪も結い直してもらえ、財閥の娘がそんな格好では恥ずかしくて表を歩けん」
『…それだけ…ですか』
「ん?、なんだ」
『あなたの言いたいことは…それで全部なのですか』
私は俯き、懐からそっと小刀を取り出した
「!…それをどうする気だ」
『…』
「お前に私が殺せるのか、実の父親を」
『…父上、私は誰だって殺せますよ…
大切な人を護るためなら!!』
「ッ!?」
ザシュッ