第10章 壊れた壊した壊された ー神崎颯馬ー
「む、あんず殿なら飲み物を買いに行かれたぞ?」
「あー、やっぱりっすか。」
俺は、神崎サンにちょこっと聞きたいことがあった。
「んー…こういうの、何か照れくさいんすけど、神崎サンは姉ちゃんのどこが好きなんすか?」
「突然であるな!?」
「ずーっと聞きたかったんすけど、タイミングが…ほら、俺あるところに姉ちゃんっすから。」
あ、今のシスコン発言だったなと思う暇もないくらいに間髪入れずに神崎サンは答えた。
「どこと言っても決められん。確かに口べたで無口で、なにをいいたいのかはいまいち理解できんことが多いが………
伝えようと、している。一生懸命に自分の口で。どうしても無理なときは、弟の力を借りて伝えようとしてくれる。諦めず、一生懸命伝えてくれる。
そんなところが好きになった!」
神崎サンは晴れやかに笑う。俺は、単純にいい人って思った。
そんな笑顔とは対照的に、部室の窓から見える外は土砂降りだった。
いつの間に降ってきたのだろう。マッシーが閉めている。
ザァァァァ……ゴロゴロッ…!!
雨の中にかすかに混ざる音。
「雷…?」
「いつの間に降ってきたのであろうか…。……あんず殿、帰りが遅いような…」
「あ」
俺の中で記憶の歯車が噛み合う。
「姉ちゃん雷苦手ジャン………」
「なぬ!?それはまことか!」
「あー、まことまこと。多分、どっかで動けなくなってるパティーンっすねこれ。」
携帯をならそうと電話帳を開けば俺の横を何かがすさまじい勢いでかけていく。最初は風か、と思ったけど違う。
ドアがありえないスピードで開閉した。
「……神崎サン?」
いない。てことはさっきのは神崎サン。考える前に行動するタイプだったらしい、彼。
姉ちゃんが無口で口べたなのは雷のせいだ。いつだったか、小さい頃、雷が家の近くに落ちた。そこで俺達の家も停電になった。
問題はその時、姉ちゃんがたった一人で家にいたことだった。雷が落ちた瞬間を見てしまった姉ちゃんは、それが脳裏に刻みついているらしい。
だから、姉ちゃんは音が嫌いだ。音楽もあんま聞かないし。
そのうち、自分の声さえも嫌がってあまり喋らなくなって……言語を学ぶような時期に何一つ喋らなかったものだから口べたになった。