第10章 壊れた壊した壊された ー神崎颯馬ー
「それで、あんず殿は舞台に出られるのか?」
姉ちゃんはコクりと頷いた。
俺はパックに入った野菜ジュースをベコベコにへこむまで吸い上げた。
「女役が欲しいんだって。」
「ということは恋物語!?うぅ…我、心配である。」
そんな神崎サンに姉ちゃんはワタワタと慌てる。見るに見かねて俺が口を挟む。
「大丈夫だよ、って。」
ブンブンと頭を振る。どうやら頷いているらしい姉ちゃんは勢い余って机におでこをぶつけた。馬鹿だ。
姉ちゃんは鞄からゴソゴソと何かを取り出しスッと神崎サンに差し出した。それは台本だった。
早速神崎サンが目を通す。俺はもう読んだ。
確かに恋物語だが、神崎サンが心配するようなことはないんじゃないかな。いや、結構過保護だし…無理かも。
ほら、もう怒りに震えてる。
「な、何であるか!白雪姫ならば最後のシーンに……!認めん!我は認めんぞ!そんな破廉恥な!!」
姉ちゃんは違う違うと手を振る。俺は捕捉する。
「フリだよ、だって。」
「フリでも心配である!!わかった、我も出る!」
「はぁ?」
姉ちゃんの意思と関係ナシに声が出た。いや、今のはおかしいっしょ。でも姉ちゃんは不思議なことに手を合わせて目を輝かせていた。
「………嬉しいってさ。」
「あんず殿!!」
その手を握って見つめ合う二人。さて、邪魔者はそろそろ退散するかな。俺は立ち上がった。
今は放課後。普通科の俺がアイドル科の2-Aの教室にいるのはおかしい?いや、おかしくないんだなそれが。
俺は生徒会に所属している。言ってしまえば職権乱用。生徒会の権限を何やかんやで駆使してここにいるわけ。
それに、姉ちゃんの口べた無口なキャラは皆知っての通りだ。俺がいたら教師や生徒会の役人でさえ通訳よろしく、と言ってくる。
どうよ、これ。俺はさっさと帰ってゲームしたいわけ。でもそうもいかない。姉ちゃんには早く自立してもらいたい。