第9章 うん、ごめん ー衣更真緒ー
「衣更くんのバカーーーーーーーッ!!!」
幼稚園児か、という罵倒。それが真緒くんの眉間にシワをつくった。
「あんずっ…!うぷっ!!」
「バカバカバカーーーーーーーッ!!!」
お構いなしに私は枕を投げた。顔面に。
アイドル?いや知りません。
「~っ!!もういいっ!人が心配してやってんのにっ!!」
「心配してなんて言ってましぇーーーんっ!!!」
私は衣更くんに向かってベーッと舌を出した。衣更くんは何も言わずにドアを乱暴にしめてこの保健室から出て行った。
私が授業中にしんどくなって保健室で寝ていたのだ。それを聞き付けた衣更くんが来てくれた…とそこまでは良かった。
ただ、そこから氷枕だの熱をはかれだの出張で今はいない先生の代わりに色々やってくれたのだ。
普通の女の子なら衣更くんありがとうキュピルンとかなるのだろうが。私は違う。
プライドが無駄に高いのだ。だから誰かに何かしてもらうのは嫌いだ。
それで、あんなことになった。
衣更くんの世話焼きは今に始まったことではないが、今日は特別嫌だった。
イライラしてしょうがない。
「あー」
そんな私の耳に、赤ん坊の声が聞こえてきた。
これは夢ノ咲七不思議のあの…!?いや違う、赤ん坊の泣き声がするのは理科室のはずだ。
「んー」
待って。カーテンが閉まった隣の部屋から聞こえない!?隣から七不思議発生!?
無理無理!こわいの無理ーーーっ!!
「じゅ!!!」
えーなに!?
あーんーじゅ!って何ーーーっ!?呪い!?呪いの呪文かぁっ!?
あーんーじゅ!あーんーじゅ悪霊退散あーんーじゅ!!
…………ん?
あんじゅ?あんず?私?ME?I?
私は恐る恐る隣のカーテンを開けた。
「あーんーじゅっ!!」
そこには可愛い可愛い赤ん坊がいた。
明らか幽霊などではない。
その赤ん坊はなぜか裸のようで、シーツにくるまって私の名前をひたすらに呼んでいる
「可愛い~っ!男の子なの?女の子なの?名前は?」
「りちゅ!!」
何だか聞き覚えのある名前を聞いて私は首をかしげる。何で裸なんだろう、と服を探そうとすればベッドの下にアイドル科の男子の制服が。
え、と思って拾い上げてみるとボタンの開け具合、セーターから凛月くんのものだとわかった。