第63章 死なばもろとも 佐賀美陣
彼氏はいるかと聴かれれば、いないと言う。
でも本当はいる。
『………なぁあんず、今日どっか行くか?』
「いいよ、私は」
今人気のアイドル、佐賀美陣。電話の相手は諦めたようにため息をついた。
『あのなぁ、俺は癒しがほしいの。可愛い彼女に癒されたいの!!』
「可愛い女の子ならたくさんいるでしょ」
『お、やきもち?』
「ぶちっ」
私は口で効果音を発して電話を切った。久しぶりだ、こんな腹立つ電話は。
素直じゃないやつ。私が何も知らないとでも思ってるのだろうか。
彼の兄が死んだニュースは、とっくに見た。
悲しんでるだろうなと思っていた。
電話に元気はなかったし、癒しがほしいと言っていた。
「ばーか」
私はポツリと呟いた。最近、独り言が増えた。
「頼る相手間違ってんだよ」
椅子の背もたれに体を預け、電話を放り投げた。くそ、わざわざ家の電話にかけてきやがった。……携帯無視したからだろうけど。
「………………もっと美人な女優とか、いるでしょう」
なんで私なんだろうか。
なんで別れるとか言わないんだろうか。
「ばーかばーか」
罵倒したところで、伝えたい相手はここにいない。
バカなのは、私か。